発案
発案した動機
メンバーの妹が毎朝メガネバンドを付けたメガネをかけているが、手指の巧緻性の乏しさに加えバンドを留める穴が小さいこと、バンドを留めるのに力が必要であること、目で直接確認できない側面で留めなければならないことから時間がかかってしまい大変であるため、解決したいと考えたから。
装着の様子
〈メガネバンドの原因〉
①バンドを留める穴が小さい
→はめ込みづらい
②固定性が強い分はめ込みに力が要る
③留める位置が側面である
→視覚的に見えづらく付けづらい
〈装着者の原因〉
①手指の巧緻性が乏しい
→片手で小さい穴へはめ込むことに時間がかかる
②上肢及び手指の筋力が乏しい
→はめ込みが困難
作業分析
〈工程〉
①眼鏡をかける
②バンドに繋がれた留め具を右手で把持する
→把持に必要な力の出力調整
③留め具を後頭部まで持っていく
④留め具を左手に持ち替える
→自分の右手の位置が分かる
⑤留め具を左耳付近まで持っていく
⑥留め具を眼鏡の柄に押し当てながら穴を探す
→視覚情報の少ない場面での探索・手指の巧緻性
⑦穴に留め具を押し込みはめる
→上肢及び手指の筋力
⇓
[今回の対象者では⑥⑦に着目]
⑥:視覚的に見えづらい位置で穴を見つけることが大変
手指の位置をコントロールしながら穴を探す繊細な作業である
→見えていなくても簡単に留めることはできないか?
⑦:穴が小さくはめ込みに力が要る
→穴にはめ込む形式を変える必要がある?
第1段階
【改善案】マジックテープに変更!
〈改善点〉
・穴にはめ込む→マジックテープで留める
→手指の巧緻性・筋力の乏しさへアプローチし、少ない力で簡単に装着できる
〈今回作成する部品〉
①眼鏡バンドの先に取り付ける留め具の代替となる部品
②眼鏡の柄に取り付ける部品
モデリング
モデルとなる眼鏡の寸法を測り、それをもとにモデリングを進めた。眼鏡の柄に差し込む突起部分については、しっかりとはめ込むことができるよう細かな調整が必要だった。耳の形に沿うように部品を三角の形状にしたりくびれを持たせるようなモデリングを行った。
プリント
どちらの部品も密度を50%に設定して印刷した。印刷時間はバンドに取り付ける部品が15分、眼鏡の方に取り付ける部品が5分であった。眼鏡の部品の突起部分が上手く印刷できずいびつな形状になってしまうことがあった。マジックテープを外す際に部品がしなることではがしやすくなると考えたため素材は比較的柔らかいTPUを採用した。
マジックテープの貼り付け
印刷した部品で型をとり、その形に沿ってマジックテープを切り取り部品に貼り付けた。使用したマジックテープはホームセンターで購入したものでテープ式になっている。バンドの張力に耐えられるよう接着力の強いものを採用した。マジックテープは眼鏡の柄に取り付ける部品にはループ(チクチクした面)を、バンドの先に取り付ける部品にはフック(ふわふわの面)を貼り付け、留める際にチクチクした面が耳に当たることを防ぐ工夫をした。
装着の様子
〈利点〉
・簡単に1人で装着可能
〈問題点〉
・眼鏡の柄に取り付ける部品が装着者の耳にくい込み痛みが生じる
・髪の毛がマジックテープに絡まり外す際に痛みが生じる
第2段階
【改善案】柄に取り付ける部品の形状を変更!
〈改善点〉
・ 眼鏡の柄の形状に沿った形になるように作成
→耳に当たりにくくなり、耳が折れ曲がることを防止する
〈今回作成した部品〉
①眼鏡の柄に取り付ける部品
モデリング
・肌に接触する部分を湾曲に設計することで、耳の形に合うようにした。
・眼鏡に着ける部品については前回よりも突起の位置を下にすることで耳にフィットしやすいよう工夫した。
・穴の大きさ3.5㎜、突起の直径は4㎜、厚さは2㎜で設定した。
プリント
・しなりやすいよう前回と同じTPUを使用。
・密度は50パーセントに設定。
装着の様子
〈利点〉
・耳に部品が当たらなくなった
〈問題点〉
・バンドに付いた部品が外れやすい
・髪の毛の絡まりは残る
第3段階
【改善案】留める部品の面積を広げる!
〈改善点〉
・柄に付いた部品と同じ大きさ→面積を拡大
→マジックテープにはみ出した部品が覆い被さる形となる→バンドを留める際に髪の毛が巻き込まれて引っ張られることを防止する
〈今回作成した部品〉
①バンドの先に取り付ける部品
モデリング
・使用者に親しみを持ってもらうためハート形に設計。
・元々あった湾曲は残すよう意識した。
・大きさは縦7㎜、横8㎜程度。
プリント
・しなりやすいようTPUを使用。
・密度は50%に設定。
・ハートの形に合わせてマジックテープを張り付けた。
装着の様子
〈利点〉
・髪の毛の絡まりが減った
〈問題点〉
・作成した部品が大きすぎて邪魔?
第4段階
【改善案】被り式に変更!
〈改善点〉
・側面で装着→被りで装着
→始めからバンドが眼鏡に留まっているため側面で付ける必要がない
→部品の大きさがネックであったが被るだけなら大きさを変える必要がない
〈今回作成した部品〉
①眼鏡の柄に取り付ける部品
②バンドの先に取り付ける部品
モデリング
・使用者に親しみを持ってもらいやすいようハート形に設計。
・ゴムをひっかけられるよう三角の穴をあけた。
・ゴムとバンドをつなげる部品を新たに設計した。穴の大きさは4㎜。
プリント
・ゴムの張力に耐えることのできる強度にするため、素材をPLAに変更。
・密度は100%に設定。
・突起部分の印刷がうまくいかないことが多く何度も繰り返した。
→サポートoffにすると改善した。
装着の様子
〈利点〉
・装着自体は単純で分かりやすくなった
・眼鏡がずれずに使用できた
〈問題点〉
・バンドのゴムがきつく、装着した跡が残ってしまった
最後に
まとめ
この自助具を作ろうと思ったきっかけとしては、メンバーの妹が毎朝メガネバンドを付けたメガネをかけているが、手指の巧緻性の乏しさなどの原因から自分でつけるのが難しいため、1人で簡単にメガネを付けられるようにしたいと考えたからである。 第1段階として作った自助具を実際に装着してもらうと、「マジックテープに髪の毛が挟まってしまう」「部品が耳に触れてしまう」という改善点が見えてきた。その後、第2段階、第3段階と実際に装着してもらいながら改善点を模索していき、最終的には第4段階として被る形に改良し、これを完成系とした。
今後の展望
今回はメンバーの妹を対象者としたが、今後は年齢性別問わず幅広い年代の方に使ってもらえるようにしたい。第4段階の被りの形は片手でも装着可能なため、片麻痺患者の方々にも使っていただけると考えている。
第4段階の改善点としてきつくて跡が着いてしまうことが挙げられたため、今後は装着する人に合わせて採寸をしていく必要があると考える。