For whom 対象者
片麻痺の方が、健側の片手だけで、薬包を開けることができなかった。そこで、木材を使い、薬包を固定する台を作成した。健側手で薬包を固定する台に差し込み、健側手でハサミを使い、薬包を切って開けていた。ハサミと自助具を使用し、健側手で薬包を開けていた。
片麻痺の健側手の機能低下によりハサミの使用が困難な人や、中枢神経麻痺や整形疾患による両上肢の機能低下の人には、この自助具が使用できない場合もある。
Why なぜ作ろうと思ったのか
片手で薬包を力を入れなくても楽に開ける自助具はないか、またハサミは使用せず片手の動作のみで開封できないかと考えた。片手で薬包を開ける時は、薬包を自助具で固定する必要があり、その為には、クランプや車いすのブレーキなどの固定力が必要と考えた。今回の自助具では、クランプの「ネジの力」や、車椅子のブレーキの「トグル機構」を用いている。
『工学』×『リハビリ・福祉』で、どのような自助具が作れるだろうかと、何回も試行錯誤している。
How どのように作成したか
はじめに片手で薬を開封する時、自助具自体を固定する必要があるかどうかを検討した。木製の簡易的な自助具に薬包を固定し、片手で薬包を開封すると、自助具が持ち上がってしまった。固定するには重くする必要がある。今回使用するPLAでは、軽量の為、自助具を重くすることは不可能と判断し、自助具自体を固定する台が必要であると考えた。
固定台(Fixed base)と自助具(薬包留め具)の作成を行う。実際に自助具を使用すると、その都度、不具合が見つかるので、改良を重ねた。最初のモデルA-typeを作成し、実際に使用し、改良点が分かり、次にB- typeを作成した。
固定台(Fixed base)の作成と使用
固定台は、ネジ式のクランプをヒントにTinker cadで作図した。作成した固定台をテーブルに固定し、 固定力は強い。何回も取り外しと付ける作業を行うと、角の内面にクラック(ひび)が見られ、その後、 壁面と底面が剥がれてしまった。また、積層方向も、剥がれ易い方向であったと気づいた。次に、角が直 角にならないように傾斜を付けた。また、プリンター出力時の積層方向も変えて行った。 改善後の固定台はヒビが入らずに、テーブルに固定することができた。テーブルの厚さ約10~30cmま で、固定することが可能。
PLA
固定台(Fixed base)のSTLファイル
薬包留め具:A-type の作成
固定台(Fixed base)のボルトの力は強かったので、ボルトの力で薬包を固定しようと考え、固定台に似た物を自助具本体(薬包留め具:A-type)にした。
自助具は、ネジを閉めると、先端の板が下がり、薬包を固定し、ネジを緩めると、先端の板が上がる仕組みである。ネジ先端の板は、薬包を留める役目があり、その為、ネジと繋がったまま、ネジが回転する仕組みを考えなくてはならなかった。ネジと板がボールジョイントで連結する仕組みを採用し、作成した。
PLA
薬包留め具:A-typeのSTLファイル
薬包留め具:A-type の使用
自助具の本体である薬包留め具:A-typeを、固定台(Fixed base)にて、テーブルに取り付ける。取り付けは片手でも可能であるが、真っすぐに固定できるように、介助者が両手で取り付けた方が望ましい。
使用方法は、
①片手で薬包を自助具の中に置く
②片手でネジを回し、ネジの先端の板が下に降り、薬包を固定する
③片手で薬包をちぎる
④片手でネジを緩ませ、薬包を取り出す
薬包留め具:A-type の改善
片麻痺の人に実際に使してもらうと、片手で薬包をちぎることが可能であった。しかし、以下の意見を言われる。
①「毎回、ネジを回したり、緩ますことが大変」
②「もっと、簡単に薬包を押さえれたら、楽になる」
③「今まで通り、薬包を固定し、ハサミで切ったほうがいい。」
と言われる。
改善策として、
①は、ネジの持ち手を摘みやすくする。⇒現在、
(作成中)改善したA-typeのSTLファイル
②は、他の方法で薬包を簡単に固定する方法を考える⇒改善案を考案
③は、①と②の改善策を行い、それでも、ハサミで切る方法が良ければ、そのようにする。
(改善案)トグル機構の採用
A-typeの改善点から、片手の操作可能で、より強い固定力を生み出すことはできないかと考え、車椅子のブレーキのトグル機構を使うことを思いついた。トグル機構は、軽い力でレバーを操作し、クランプの可動により倍力で固定する装置である。製図後、木材と金具にて実物大のトグル機構の試作を作成し、操作してみると、固定力を生み出すことができた。この試作を3D-CADで製図し、3Dプリントの出力を試みた。
薬包留め具:B-type の作成
トグル機構を用いた固定方法の自助具を作成する。トグル機構になるリンク3本と、リンクを支える自助具本体と、リンクが外れないようにする止め具を作成する。車椅子のブレーキのように、最後に「カッチ」と音がなるほどの固定する仕組みが必要である。これは、短いリンクと長いリンクが178°で止まるようにリンクにストッパーをつけた。なぜ、178°かと言うと、トグル機構は178°で力が一番増幅される装置である。
薬包留め具:B-type の使用
B-typeを、固定台にてテーブルに固定する。使用してみると、薬包を留めるに必要な力は発生可能であったが、自助具の薬包を置く台が、事前のイメージと異なり、丸面になった為、台とリンクの間に大きく隙間ができてしまい、薬包を固定できない。固定する為、台に1mmのゴム板を付けると、薬包が滑らずに固定できるようになった。
完成したばかりで、時間がない為、対象者には使用していない。まだ、改良する点が多くある。
薬包留め具:B-type の改善
只今、改善中。
今後の改善するポイントは、
①より強い固定力を発生させるにはどうするか?
②薬包が滑らないように、台の表面の加工をどうするか?
上記の試行錯誤を行い、さらに良い自助具の作成を目指す
成形条件
成形について、全てのSTLファイルは、以下の機器と材料、設定条件にて3Dプリント実施
・製図:Tinker CAD
・スライサー:CURA
・材料:PLA【ENDER製(白色)、polymaker製(黄色)】
・3Dプリンター:Ender3 S1
成形温度:220°
インフィル密度:30%
インフィルパターン:トライアングル
印刷速度:60mm/s
5.Outcome:対象者の何がどのように変化する道具なのか
元々、木製の自助具で薬包を固定し、健側手でハサミを使用し、薬包を開封していた為、この木製の自助具よりも簡単に開封できないと、3Dプリントで作成した自助具を使用しようという気が起きないという正直な対象者の気持ちがある。実際に使用する中で、改善点が見つかり、只今、試行錯誤中であるが、木製の自助具よりも楽に使用でき、ハサミも不要となる自助具を完成させたい。
今回の取り組みでは、対象者の満足できる自助具の完成に至らなかったが、高次脳機能障害によりハサミが使用できない方や、両手指の機能低下により、両手で薬包を開封できない方の手助けになるのではないかと考える。
5 まとめ
今回、元々ある自助具より便利な自助具を3Dプリンターで作成してみたいと思い、動き始めました。また、ネジやトグル機構などの機械要素と、リハビリ・福祉の観点から、楽に使える自助具を作成する試みをしました。改善点が見つかったので、今後は、改良し、対象者が楽に使える自助具を完成させたいと思います。
C-typeの開発をしていきます。今後も続きます。
to be continued