For whom:対象者

今回の対象者は、骨粗鬆症の基礎疾患あり、下肢筋力低下、立位バランス低下している高齢者。何回も転倒による骨折にて入院しており、転倒防止策が必要。自宅のトイレの扉を開けると、正面に便器があり、手すりはついているが、身長が120㎝台、円背と小柄な為、体幹を前屈し、トイレのレバーを操作しており転倒の危険が高い。

Why:なぜ作ろうと思ったのか

対象者の担当ケアマネジャーより「自宅での転倒が増えてきてきた。自宅トイレに手すりはあるが、レバー操作時、転倒リスクある為、レバーを長くすることができないか。」と相談を受ける。
木材やプラスチックなどを使用して、結束バンドやネジでレバーに固定しようと試すが、レバー表面が滑りやすく、上手く固定できなかった。作成を諦めていたが、3Dプリンターでの自助具作成を知り、また、公共施設(富山県総合デザインセンター)の3Dプリンターを利用できることを知り、今回、3DプリンターでRabbit★Leverの作成を始めた。

How:どのように作成したか

トイレのレバーの表面が滑りやすく、このようなレバーを掴むには、バネのように締め付ける力が必要であると考えた。バネのような力を発生させる為、ペットボトルオープナーとピンセットを融合したものをイメージし、作成を開始した。

寸法を測る

ネットでレバーの図面データーを検索しても無い為、デジタルノギスにて、実際のレバーの寸法を測定する

Rabbit★Leverのデザインを作成する

3D cad ソフトTinkercad使用し、まずはレバーのモデルを作図し、レバーに合わせ、Rabbit★Leverのイメージデザインを作成する。Tinkercadは、初めて使用するので、操作方法を覚え、デザインが完成するまで、約1週間ほど費やした。

Rabbit★Lever stlファイル

レバーの模型を作る

レバーの形状を正確に把握したいが、レバーは外せない為、代わりに、紙粘土にて、レバーの型取りを行い、その紙粘土の型に石こうを流し込み、レバーの模型を作る。乾いた石こうの表面が剥離しないようにスプレーでコーティングする。

非接触式三次元測定機にてレバーの模型を計測

富山県デザインセンターの非接触式三次元測定機を使用し、レバーの模型を計測し、模型の3Dデーターを作成する。3Dデーターで見ると、レバーには、底面と天井面ではテーパー(傾き)があり、しっかり固定しないと、抜けやすい形状になっている。

レバーの模型の3Dデーターに合わせ、Rabbit★Leverを修正し、作図する

Tinkercadで作成したRabbit★LeverのSTLデーターを、富山県総合デザインセンターの3D cad「Rhinoceros」を使用し、レバーの模型の3Dデーターに合わせ、修正し、作図し直す。デザインセンターの職員の協力の元、修正したSTLデータを作成する。Rabbit★Lever修正.STLファイル

3Dプリンターで成形する

スライスしたRabbit★Lever修正STLファイルを、富山県総合デザインセンターの多素材3Dプリンターを使用し、材料はABS樹脂を用いて、造形温度250度 積層ピッチ0.2㎜ 造形時間4時間51分 使用材料の量46.3g にて成形する。完成した物を、実際のトイレのレバーに付けると、バネのように戻る形状にした為、しっかりとレバーを固定することができた。レバーを動かしても、レバーが外れたりすることは無かった。

Outcome:対象者の何がどのように変化する道具なのか

Rabbit★Lever(延長レバー)をつけることで、持ち手が手前に近づいた為、体幹の前屈が軽減した。また、レバーが伸びたことで、てこの原理により、前よりも軽い力で、レバーを動かせることができた。対象者が操作した感想は「軽くて良い。」と、驚いていた。軽い力で動かせることは、重心移動を軽減し、転倒予防に繋がると考える。
この対象者だけでなく、片麻痺やパーキンソン病など他の人も、排泄時、トイレのレバーが操作し難い方にも、使用できると考える。

まとめ

私は作業療法士で、3Dプリンター作成の自助具作成を知る前は、市販の材料を組み合わせることで自助具を作成したり、作成できない時は、作成を断念することがあった。今回、3Dプリンターを使用することでイメージ通りの物を作成することができ、また、作成した自助具が対象者の生活を豊かにでき、3Dプリンターは自助具の作成に非常に優れた機器と実感した。
(謝辞)
コンテストを通し、「Tinkercad」を操作方法を一から覚えることができましたし、3Dプリンターの使用体験ができ、良い機会となり、本コンテストの開催に感謝します。また、3Dプリンターの出力に協力して頂いた富山県総合デザインセンターの職員にも感謝します。