テーマについて
私は今回のテーマである「循環型社会を促進するこれからの暮らし方」を考えて、より幅広く促進していくためには何かしらの制作物を作るのではなく、いかに日常的に使っているものを環境対応にしていくかが重要であると考えました。
現在の取り組み
身近なところで多く消費されているプラスチックは大きく分けて2つあると考えます。1つ目は消耗品、2つ目は備品です。今現在よく注目を集めているのはこのうちの『消耗品』の方でレジ袋有料化やマイバッグの活用促進、包装の簡易化など多くの取り組みが行われています。一方で『備品』の方はあまり注目されておりません。私は備品の環境対応化が進まないのは備品は長い期間使うため、強い耐久性を求められているからだと考えました。
新素材という朗報
そこに今回、『新素材』という朗報が舞い込みました。それこそが三菱ケミカル株式会社の“DURABIO™ フィラメント”です。これは環境に優しい植物由来のプラスチックで、高い透明性、優れた光学特性などの特徴があるとともに、耐傷付き性に優れ、PC樹脂に匹敵する耐衝撃特性があると知ります。私はこの素材こそが備品の環境対応化を進める救世主になると思いました。
個人レベルで
しかし、私はこの素材にも大きな欠点があると考えました。それは、『コスト』です。
一般的な素材(PC樹脂など)に比べて原料コストが多くかかることは容易に想像できます。そのため、企業レベルでの採用が進むことはあまり無いのではないかと考えました。そのため、個人レベルで環境に対応した備品を活用していくことを考えたとき、私はパーツシェアを思いつきました。
パーツシェアとは?
私の考えたパーツシェアはありふれたものです。
身近で交換可能(つまり定期的に割れたり壊れたりする)なパーツを各自3Dスキャナーを使用しスキャンします。そして、スキャンしたデータをシステム上にアップします。システム利用者は壊れたパーツがシステム上にあれば環境に優しいフィラメントを使用してプリントするだけですし、なければスキャンしてシステムにアップしてからプリントします。しかし、それだけでは一般的なフィラメントで印刷して使用する人が出てくるかもしれませんので、利用規約に『生物由来のフィラメントを使用してプリントすること』という条文を加えることとします。
仕組み作り
まず実証レベルのシステムを作成しようと考えました。システムは大きく分けて2つで、スキャンした3Dデータを送信する『フォーム』とそれを一覧化し共有する『データベース』です。
フォーム・データベース作り
フォームは将来的にはアカウント管理システムと連携させるためにデータベース側で作る必要がありますが、今回は簡易的なものとして作成するためGoogleフォームを使用しました。また、データベースは最も使い慣れていたWordPressを使用しました。システムの仕組みは単純でGoogleフォームで送信されたデータをGoogleスプレッドシートにて書き出します。書き出されたデータをデータベース(WordPress)にて読み込み、自動的にWEB公開します。これら一連の動きはGAS(Google Apps Script)にて完全自動化しました。
実証
まずは作ったシステムを自分で実証しようと考えました。
身近で壊れかけていたものとして洗濯機ドアの取っ手部分があったのでそれを実験台にしました。
スキャン
ハンディ3Dスキャナを使用して全方向をスキャンしました。
データ変換
点群編集ソフトを使用してスキャンデータの補正を行いました。
※スクリーンショットの公開が問題ないのか確認が取れなかったため、添付していません。
3Dデータの印刷
点群編集ソフトから書き出したデータを使い慣れた3DCADソフトにて確認したのちDURABIO™ フィラメントを使用して3Dプリンタで印刷しました。また、印刷後、本物により近づけるため着色を行いました。(写真では分かりにくいかもしれませんが、右のほうが若干白いです)
※写真は実物(左)と印刷物(右)
3DCADデータは市販パーツのスキャンデータを使用して作成しているため、著作権問題があるかと思い、
サンプルデータ
を作成しました。(実際のパーツとはサイズが違います)
実利用①
3Dプリンターで印刷したパーツを実際の扉にはめ込んで使用してみました。動画を見ていただくと分かりますが、若干の誤差があるのか少しガタついています。
補正
内側の縦幅が若干短かったのと内側の構造を再現できていなかったのが原因と考え、3DCADソフトを使用して補正したのち、同じようにプリントしました。
実利用②
再び実際の扉にはめて使用したところ今回はほぼピッタリはまったのかガタつきはほぼ無くなりました。(先入観からか少しガタついているように感じますが元々だと思います)
課題点
実証の結果を検証し、今後の課題点を挙げました。
コスト
パーツシェアのデータは生物由来のフィラメントを使用せずにプリントすることも可能であるため、利用するだけ利用されてしまうのではないかという問題があると考えました。この問題は当初から懸案していますが、印刷までの過程を管理するのは事実上不可能なので解決策は見出せていません。
補正の必要
3Dスキャンデータはノイズの問題もありそのまま3Dプリント出来ないため、補正する必要があり、補正の過程で元のサイズと誤差が発生してしまうため修正が必要でした。手軽にスキャンしてアップロード出来なければ時間をかけてデータを作る必要が生じ、パーツシェアが促進されなくなってしまうと考えました。これの解決法はメーカーの協力を得るなど多くありますが、財政的支援を受けずに行うには事実上不可能なため、今後のスキャン技術の進化に期待するしかないという結論に至りました。
著作権問題
市販されているパーツには著作権が存在することがあるため、WEB公開は私的利用を逸脱しているのではないかという課題です。今回の実証では一般公開を行わずに実験していますが、広めていく過程で大きな課題として挙がるのではないかと考えました。
実証実験(協力)
学友たちに実証実験への協力を依頼し、各家でパーツシェアを使用してもらいました。
何人かにお願いして順番に協力してもらいましたが、本人たちからはハンディスキャナのスキャン範囲では難しいという意見を頂きました。
Usages欄よりご覧ください。