スプリントとは
「スプリント」は、いわゆる「装具」の中の種類のひとつ。
「装具」の中でも、身体の可動部位の固定のための弾性・非弾性の補助具。
スプリントは、固定や支持、保護、矯正、代用や補助、筋機能の改善や可動域訓練など、様々な目的がある。
ファブリックとしての3Dプリント
このプロジェクトでは Fab 3D Contest の参加者に提供されるユニチカ社の感温性フィラメントを利用させてもらいました。
3Dプリントしたものが熱により可塑性を得て、別の形として定着できることにはとても可能性があると感じています。
可塑性が得られることで平面として出力されたものを立体に沿わせることができるので、スプリントのように当事者の身体にフィットしつつ、ある形を保持する必要があるものを製作する上で非常に有効な手段だと思えます。
ユニチカ社 感温性フィラメント
可塑性を担保するための粗密のコントロール
なるべく可塑性を得るためには3Dプリントするシートの粗密をコントロールする必要があります。今回は出力時の充填率の設定でコントロールしました。
ゆくゆくはFabrixなどのテクノロジーを採用していく必要がありそうです。
Fabrix
手書きで採寸するコミュニケーション
古いスケッチを引っ張り出してきてこちらを元にモデリングしてみます。
直接関係のない話ですが、わら半紙は最近見なくなりました。
こうした手書きのスケッチなど直接手に触れたりしながら当事者の方々とコミュニケーションを取る時間もものづくりの貴重な側面です。
最近は3Dスキャンで同じような時間を過ごすことが多くなりました。
手書きスケッチをスキャンしてトレース
手書きスケッチをスキャンしてイラストレータに取り込み、ベジェ曲線でトレースします。
トレースしたデータはsvg形式で書き出し、3Dモデリングソフトに取り込みます。
トレースしたsvgデータ
TinkerCAD でのモデリングデータ調整
トレースしたデータをTinkerCADで読み込みます。
左側は最初の試作時のデータ、手の甲をもう少しホールドするために少し太くしたものが右側のモデル。厚みは左側のものを1mm、右側のものは3mmにしています。
試行錯誤-1
最初は厚さ1mmのモデルを出力。
残念ながら硬さが足りず、必要な保持力を得ることができませんでした。
スライサーの設定は以降のものも共通で
インフィルパターン:ポリゴン
充填率:60%
としています。
試行錯誤-2
2度目は硬さが欲しかったので、厚さを3mmにして出力しました。
出力時の充填率やインフィルパターンは変更なし。
これで熱セットされれば、形が安定するはずです。
熱セット
ポットで沸かしたお湯をたらいに張り、手に馴染ませたスプリントを入れてみました。
すると、即座に形が展開してしまい、あっけにとられることに。
温度が下がれば記憶された形態に戻るのかも、と待ってみましたが、展開された形で固まってしまいました。
試行錯誤-3
次は新たに出力したものをそのままお湯につけ、熱すぎず冷めないうちに手に馴染ませてみました。
温度が下がってくるうちに硬くなり、肌の温度でも形は変わらなくなったので、今回はうまく熱セットできたようです。
しかし、ここで疑問が。
今回のケースでは結局どの温度で形が変えやすいかは関係なく、熱セットの温度にあたためたものをそのまま形にすることで形態を安定させることができたようです。
感温性の温度の機微はそれほど問題ではないという結論になってしまいました。
スプリント製作、試行錯誤の3兄弟
このスプリント製作、試行錯誤の過程です。
左上から
・厚さ1mmで出力、硬さが足りず、スプリントの用をなさない
・厚さ3mmで出力、熱セットに失敗し、形が展開してしまった
・厚さ3mmで出力、一応の完成と見られる
今後の課題
・スプリントには大きなものも必要になるケースがあるので、どのように解決していくか
・腕のスプリントなどには固定用にベルトを併用することが多いようなので、そのためのデザイン
・実際に当事者の方々に試していただいてフィードバックをいただく
45℃感温性フィラメントでの試作
ユニチカ株式会社から45℃感温性フィラメントのご提供をいただき、熱セットをしない方法を試しています。
45℃程度のお湯に一旦浸けてフィッティングし、手につけたまま水道水で急速に冷やします。この一連の作業で樹脂形状が安定化するようです。
通常の室温や肌につけているだけでは変形しないので、熱セットをしないままです。
この方法であれば、ことあるごとにお湯につけて形を調整し直すことができるので、より現実的なものといえそうです。
※画像左:形を整える際に熱セットしたもの(形状変更不可)、画像右:45℃感温性フィラメントによるもの。熱セットしていないので、45℃のお湯に浸すなどすれば形が変えられる。