【もっと話がしたい!】意思伝達支援ツール
私達は、集団の中で生活を送り、
様々な人や物、社会との接点を持ちながら
生活を送っています。
「僕らは話がしたいんだ!」
より豊かな生活を送るためには、コミュニケーションはなくてはならないもの。
コミュニケーションを必要としている少年と出会いました。
【誰が必要としているの?】(ニードノウアさんについて)
・中野竣斗君 小学6年生
・髄膜炎の後遺症で脳幹障害になり、呼吸器を使用中
・指先や腕などを少し動かす事が出来る
・意思表示ツールは左で握っているスイッチ
・お母さんと指談で意思疎通している
・今の表現は一部の人にしか伝わらないので、他者との意思疎通が不十分
竣斗君が試していること 1 | 色々なスイッチ
・自作出来るものは、ある程度は製作して経験
・ICT救助隊のイベントへ参加し相談したことも
竣斗君が試していること 2 | 左手スイッチ
・100均のボールにピエゾスイッチを繋げて使用
・使用中にずれたりすることが発生している。
竣斗君が試していること 3 | iPadアプリ
・PCが苦手。使いこなせていない。
・ipad「グライドカーソル」を今練習しています。
【初回プロトタイプ制作にむけて】
当初は、「左手スイッチの改善」。
会話を重ねて行く中で、 自発的な動きを自分自身で行ってもらえるようになってほしいとお母様から。
「もっと勉強がしたい」 「自分を表現したい」
「コミュニケーションをスムーズにしたい」という
高い意欲を持っていることを教えてもらう。
学校滞在中 バギー乗車時に 利き腕の右腕をサポートするツールの開発も追加となった。
【最終プロトタイプ】
意思伝達支援ツールの最終型。
意思伝達支援ツールとして、今回は授業場面で
の活動に繋げる右手動作補助と既存の
ピエゾスイッチを使い易くするツール
右腕)サポーター、スプリント、吊り下げスタンド、確認用スイッチ
左手)にぎにぎスイッチ
【どんなプロダクトを作る?】
初期段階では、具体的な形状などのイメージはなく、
とにかくコミュニケーションを多く重ねて、
様々なアイデアがSlack上に集まるよう。
竣斗君は指談で情報を提供してくれた。
集まったアイデア・アイデアスケッチ
【初回プロトタイプ】
考えられるアイデアを 先ずはプロトタイプで検証!と
制作を開始
様々なアイデア、アイデアスケッチをまとめる。
左手は悩み無し!
右腕については2つのサポート方法を考え制作した。
右腕をサポートするツール | 固定式
PC用アームスタンドに乗せるタイプ
・肘乗せ台と手載せ台が前腕乗せ台に対し取り付け角度がねじで調整可
・お母さまが最初にリクエストされたイメージ
右腕をサポートするツール | 固定式
前腕サポーター
感温性のフィラメントで出す事を想定し、まずは紙粘土で型取り
可動式のアームレストに設置する事を考えて
手掌側にはペンを固定できる様に
右腕をサポートするツール | 吊り下げ式
サポーター)
腕の丸みにあわせてマジックテープで
加減しながら取り付けてもらえるスタイル
ポリ素材のクリアファイルを切り
ウレタンシートを貼りつけた
スタンド)
卓上で販促POPを飾るものを流用
右腕をサポートするツール | 確認用スイッチ
右腕のサポーターによりアウトプットされる情報を確認するために必要(視覚・聴覚・振動覚への刺激)
自分が押したスイッチの認識を促す。
左手 | 左手スイッチの改善
プロト1
今まで使っていたボールについての更なる改善要望から、ひょうたん型というアイデアが出て、さらに左手でホールドし易いツバ付きのアタッチメントを考えました。
プロト2
握った時にアタッチメントと親指がぶつかる傾向があるため、親指を逃げる形にツバを斜めにする変更改善した。
アウトプットのイメージ
マイクロビットを活用して、◯✖️(yes-no)選択表示
ipadを活用しないでも、速やかな返答ができる環境をイメージ
【作業療法士 主体によるヒアリング・検証】
具体的な理想的なツールの形を見つけるため また、竣斗くんの状況を確認するため
プロトタイプをたたき台に、メンバーの作業療法士によるヒアリングを行う。
・右手での活動分析
・スイッチの段階的な活用ステップの工程
フィードバックにより状況をより詳しくチームで共有することができた。
※オンラインでのやり取りの難しさを感じた場面
全体)
・視力について、あまり細いものは難しいがiPadで4〜6分割ぐらいは判別ができそう
・聴覚については基本的には問題はなさそう(音への反応や音のする方に眼球を動かすなどあり)
右上肢)
・普段は上腕を身体に引き寄せる様な動き(肩の内転・内旋)が出やすい
・上肢全体に力を入れて一緒に動かしている。起点は肩あたりから
・動きを出す際には手を立てた姿勢の方が力が入り易い
・バギー座位では右手の方が水平面での動きが出し易い
・肘を接地で固定するより全体を浮かせる様なイメージで支えた方が良い
・動きがわずかである為、腕の重みや摩擦の軽減が必要
・ペンの握りが難しい為、固定が必要
左手)
・右手より左手の方が手指の動きが良い
・現在のボール(素材や反発力が良い)が一番使用し易い
・初期プロトタイプにより握っている間に動いてしまう事は少なくなっている
握り部分の形状についてはもう少し楕円やグリップし易い凹みがあると良い
・一度握ると力が抜けにくいので長押しになってしまうことも
【最終プロトタイプに向けたブラッシュアップのポイント】
作業療法士からのフィードバックをブラッシュアップのポイントに。
方向性が定まっているのでブラッシュアップを進めるメンバーの作業のブレが少なくなった
右腕をサポートするツール | 全体について
固定式、吊り下げ式共に右腕の動きが不十分。
3つのプロトタイプの利点を合わせ
て調整して動きを補助する。
右腕をサポートするツール | 前腕サポーター
・サポーターは
固定式
。前腕から手首までのホールドが動き易いとのこと。
・固定式も吊り下げて検証。
今までで一番大きく動きが出た。
・肘よりも手首側が4センチ程上がっている位置
・
手首は立てた方が動きやすい
・吊り下げ部分へバネを付け根に使用されたところ動きが良かった
右腕をサポートするツール | スプリント
・
ペンは自分で持ちたい
・ペンの握りが難しい為、
固定
が必要
・掌が立てられる様な固定が十分でない為、既存のペンホルダーがだんだん動いてしまう
右腕をサポートするツール | スタンド
・
起点上(右の肩・肘)に回転軸がくる
ようように調整できるもの
・腕の重さに耐えられる
丈夫
さが必要
右腕をサポートするツール | 確認用スイッチ
僅かな力で動かすスイッチに関してリサーチを進める
左手 |
・球型スイッチの押す動作は、現状確保されているが、しっかしとした把持が大変
現状でもかなり改善できているが、より把持しやすいホルダーへブラッシュアップ
【最終プロダクト】
ここまで約1ヶ月かかりました。
冒頭で紹介した最終プロトタイプまでもどりました。
右腕をサポートするツール | 前腕サポーター
■befor→PC用アームスタンドに乗せるタイプ
・肘乗せ台と手載せ台が前腕乗せ台に対し取り付け角度がねじで調整可
・お母さまが最初にリクエストされたイメージ
■after→プロト1の評価と大友さんヒアリング後 吊り下げ方式対応に変更
・肘乗せ台削除して、前腕乗せ台長さ延長
・手載せ台の平手幅を竣斗君に合わせ大きく
・吊り下げ用穴追加
■前腕乗せ台(Arm-Rest-B)
インフィル密度:15%
プリント時間:5時間44分(レイヤー0.3㎜)
■手載せ台(Hand-Rest-B)
インフィル密度:15%
プリント時間:45分(レイヤー0.2㎜)
プリンター:ANYCUBIC MEGA-S
材料、温度:PLA、200℃
右腕をサポートするツール | スプリント
前腕を中間位(手を立てた位置)に保持し手首を支える形
掌側にはペンを固定できる凹みを作っています
45℃で柔らかくなる熱可塑性の感温性フィラメント(ユニチカさんからご提供)で出力
平面で出して竣斗君の手の形にお母さんにフィティングしてもらった
1回目は厚さ5ミリと扱い難かったため2ミリで再調整
右腕をサポートするツール | スタンド
丈夫さ、アレンジしやすいシンプルな構造の
既存製品モニターアームを利用。
前腕を吊り下げる追加パーツは軽さと丈夫さがあるアルミパイプを用いた。
右腕をサポートするツール | 確認用スイッチ
右上肢の動きをスイッチインターフェイスを通して、フィードバックできる様に腕に巻ける様にしました。
100均のライト購入後、スピーカー、振動モーターを取り付ける。
バンド固定部(白)カバー部(オレンジ)
白・オレンジ TPU
3Dプリンター ANYCUBIC MEGA-S
インフィル 20%
出力時間 バンド部38m カバー部1h38m
左手 |
握った時にアタッチメントと親指がぶつかる傾向があるため、親指を逃げる形にツバを斜めにする変更改善した。
■にぎにぎアタッチメント(Upper-Handle_C)
インフィル密度:10%
プリント時間:1時間15分(レイヤー0.2㎜)
———
プリンター:ANYCUBIC MEGA-S
材料、温度:PLA、200℃
竣斗君着用 |
【ようやく竣斗くんとスタートラインに】←今ここ!
ようやく竣斗くんと一緒にスタートラインに。
作業療法士が考察したステップを最終プロダクトと共に進めていきたい。
↓ ステップ1
右手の内側へ入る動きでスイッチのオンが出来る。yes・noの二択で答える
↓ ステップ2
選択項目を増やしその中から選ぶ。カーソルを移動させ、決定は左で。
↓ ステップ3
アプリのドロップトーク等を利用。キャンパスの作成にあたり反応速度や画面の分割割合などを配慮が必要。アクセシビリティの設定にて読み上げやグランドカーソルの活用。50音表の利用。より自由な会話を目指す
↓ ステップ4
右腕でタッチペンを持ちipadやペンタブで字や絵をかく
まとめ
「本気の失敗には意味がある」とあらためて強く感じた1ヶ月半だった。
諦めず前に進む竣斗くんに勇気をもらった。
フォローアップメイカソンやりましょうね!