3Dプリント製手の装具(スプリント)の意義

・急性期病院では昨今入院期間短縮傾向にあります。
・それに伴い手の外科患者に対するハンドセラピィ実施時間も短縮傾向です。
・スプリント作成のみで退院・転院するクライエントが多いです。
・そこで当院ではスプリント作成時間短縮に3Dプリンターを導入しています。


サムポストの適応

母指CM関節を安静にする必要のある方

母指のスプリント(サムポスト)作成について

・サムポストは作成時母指周囲を覆うように作製するため、スプリント材を曲げて伸ばす必要があります。
・PLAで装具を作成する場合、素材の特徴から手に沿わせて曲げる、伸ばす装具は適応ではないと考えています。
・素材や、形を工夫して3Dプリントによるサムポストを考案することを目標に作成しました。

方法

1.トレース型紙作成
2.3Dモデリング FUSION360
3.スライスCURA QiDiプリント
4.出力 3Dプリンター(QiDi社製 i-fast) フィラメント Polymaker社製 Polilite ユニチカ製 TRF+H
5サムポスト作成  ヒートパン、ヒートガン、ドライヤーにて

試作1


型紙→トレース

手書きしたものをメジャーで寸法測定しながらFUSION360でトレース

CURAにてスライス

top/bottom 0mm インフィル40% PLA23gで出力

結果と課題

・トレース 可動性を考慮して作成
 →母指のMP関節の可動が大きく、CM関節の可動を制限できませんでした。
・通気性を考慮し作成
 →スプリント作成時、通気孔部にお湯が定着し熱かったです。
・PLAの特性 熱加工可能ですが、10秒程度で硬化するため1回の熱処理で造型するのは困難でした。
・厚み インフィル40% トップ・ボトムがなくCM関節の制動は弱いかもしれません。

試作3


CURAにてスライス

Top/Bottom0.8mm インフィル40% 厚さ2.5mm TRF+H 39gで出力 

ドライヤーにて成型

出力後ドライヤーにて成型しました
30秒程度ドライヤーで加熱すると素材は柔らかくなります。 
伸張性・柔軟性はPLAとスプリント材の中間程度の印象です。
柔軟持続性はPLAより長く成型しやすいです。
折り返すような曲げは無理でした。
PLAと比べ柔軟性があるため、母指IP関節からCM関節までの密着性が高くCM関節固定が良好でした。

お湯・ヒートガンで採型

お湯で成型しました。
ジャストサイズのものが完成しました。
TRF+Hはお湯で加熱後、30秒程度柔軟性が持続しました。
ドライヤーで成型するより作成時間は短縮できます。
母指IP関節部分を折り曲げるのはヒートガンを使用しても困難です。
そのため、計測が重要になります。
ヒートガンで母指背側部分を圧着するとCM関節の固定は安定しました。クッション材も必要ありませんでした。
ベルクロオスをヒートガンで接着し、ベータパイルを取り付けて完成です。
PLAと比較するとCM関節の固定は良好です。

計測ポイント

計測すべきポイント 
・母指の水かきとIP関節皮線の距離ー5mm
 IP関節屈曲時にスプリントが邪魔しないように調整します。
※母指IP部分の折り返し加工が困難なために短めに設定必要です。
参考:STLファイルデータの変倍85%で27mm、115%で37mmになります。

結果

PLAとTRF+Hで作成したサムポストを動画で比較します。
https://youtube.com/shorts/TxSZBpotiqo
TRF+Hで成型したサムポストはPLAよりCM関節固定性が良好でした。
お湯・ヒートガンでの成型はドライヤーより成型が用意でした。

サムポスト作成費用 13.2×17.5×2.5mm 出力39g

原価
・アクアプラスト 2.4mm穴なし 460mm×610㎜ 14,200円 税抜き
・TRF+H     500g                                           10,050円 税抜き   
作成費用
・アクアプラスト 裁断を調整すれば10個作成可能 1個当たり1420円
・TRF+H     12個作成可能          1個当たり875円

3Dプリントスプリントの特徴

・型紙作成・裁断の工程を省略できます。
・プリント材と比較してコストパフォーマンスが高いです。
・見た目が美しいものができます。
・端材が出ません。
・プリント作成経験が少ない作業療法士でも作成しやすいです。

サムポスト作成者の対象

手の装具(スプリント)作成は医師の指示のもと行っています。
サムポスト作成者の対象は作業療法士や医療従事者になります。

試作2

型紙の作成

型紙を作成 紙にも伸張性がないことから、紙でサムポストに最適な形を試作しました。

モデリング

型紙を画像ファイルに変換後、FUSION360に取り込みました。
枠線をスケッチし、押し出し3mm,フィレットを両面1mm設定しました。

QiDi printにてスライス

top/bottom 8mm インフィル40% 厚さ3mm  PLA 44gで出力しました。

成型

ヒートガンとお湯にて作成
加熱後の軟化時間は短いため成形には数回加熱しました。
母指IP関節屈曲時、MP関節外側部に隆起ができるため除圧しました。
掌側をベータパイルで2点固定することでCM関節の固定が安定しました。
お湯にてトリミング可能でした。
動画を参照してください。
https://youtube.com/shorts/mf98dmD8vDk

結果と課題

・伸張性を考慮して型紙を作成した結果、ジャストサイズのものができました。
 クッション材を設置し密着性が改善しました。
    面取りしているので、トリミングは必要ありません。
・成型時、曲げる作業が多いためPLAでは加熱工程が多くなりました。
・IP関節屈曲時にMP関節後面のスキンテアリスクに対策が必要でした。これは母指全体の密着性が弱く、指を曲げるとスプリントの中でMP関節が動いてしまうためではないかと考えました。