ニードノウアとニードについて

ホワイトボードの上まで書きたい。
本人は、右腕の疲労や姿勢の制限があり、長時間の書字やボード使用に困難を感じている。 働いている老健では、スライド式ボードやプロジェクターは導入が現実的でなく、左上肢で右上腕を支える工夫をしながら太いペンや大きめの文字で対応している。 私生活では音楽ライブが趣味で、手を挙げる動作を重要視しているが、疲労や代償動作のため連続2分程度が限界である。

ニードノウアとニードについて その2

趣味に伴う移動は関東圏まで(車・新幹線)で、宿泊は車で行ける範囲の2days程度。 日常生活では、握力低下(右26kg、左42kg)や仕事後の疲労感で吊革保持や高いところのタオルの取りにくさなどの不便がある。疲労度はレク後に強く、将来的には軽減したいと考えている。 職場は4年目で、同僚も病気を理解しており、必要に応じて配慮してもらっているが、紙カルテの取り扱いは負担がある。自助具は使っていないが、使う場合、職場では実用性重視、プライベートではデザイン性を気にしたいという考えがある。

ニードノウアについて(苦手なこと・得意なこと・趣味や暮らしなど)

苦手なこと:右肩を90度以上 上げること
得意なこと:折り紙、壁面制作、(仕事をするようになってから利用者さんに教えてもらったり、調べたりしてできるようになった)
趣味:ライブ鑑賞
暮らし:自動車運転
仕事:介護老人保健施設勤務

ニードについて(どこでいつ誰とどんな頻度で?ニードノウアにとっての価値は?)

仕事:週5勤務フルタイム
どこ:職場(介護老人保健施設)
誰と:利用者
頻度:3回に1回
価値:ホワイトボードの固執まではいいとは思うけど、脳トレなどの手段として存在している、仕事としてみると、楽しんでもらえている、やっててよかったと思う、やりがいとなってる、患者さんと直接かかわれるところだから。30分のレクの中で、ホワイトボードを使う物は20分占めるため、とても重要。
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作成前の活動満足度

疲労度:7/10→4/10になったらいいな
COPM: 遂行度:8/10 満足度:5/10 重要度:10/10
疲労が満足度を下げる原因となっている。

解決策と道具の要件


解決策について

目的:負担少なくホワイトボードの上部に書くこと
条件:ホワイトボードは上下で回転しまう プロジェクターなどの導入が厳しい
ペンタイプの場合は、定規+クリップ固定でたわんでしまってうまく書けなかった経験あり、取り付けたペンが取れてしまったこともある。マグネットタイプは書いて毎回上に上げる必要があり、負担感が大きい。
→たわまない素材や、ペンの固定方法を選定することで負担感の少ない物を作り、ホワイトボードの上までペンで書くことができそう。

要件について

3Dプリンター、Tinkercad、Bambu を活用してオーダーメイドなジョイント部を作る
ラップの芯、デザイン紙、フィラメント(PLA Silk)を用いて実際に使うペン(ボードマスター+他)に嚙合わせる、接着剤を用いてユニットを繋ぐ。
右肩関節屈曲最小限、疲労感が少ないようになる物品を実現させる
支柱がたわまない、ペンが取れないような素材・形状・可変性の実現

参考事例とアイデア

テクノエイド協会 

チームメンバーのアイデア

免荷という面での意見では、滑車を用いて右上肢を上げる、ホワイトボードの上端に物品つけて右上肢挙上時に免荷する、レッドコード的な形で吊るすというものがあり、ホワイトボードが回転するとのことで、リスク面から難しそう。
キャスター付き肘置きやテーブルを用いて横移動する形式や、体幹に物品つけて負担を減らして上方リーチの意見も出た。
一方、右上肢を挙げる必要性が疑問になり、本人に聞くと、疲労することが第一の問題であるとのことがあり、その原因の右上肢を挙げる補助より、挙げなくても良い物が優先ではないかとなった。
ペンをたわまない角度調整可能な棒状のものに取り付けることで、書きにくい、ペンが取れることを防げるか。

アイデアの2

先の件を踏まえて、右上肢(特に肩関節)の動作を最小限にしつつ目的であるホワイトボードの上までペンで書くことのできる物のアイデアを考えた。
ペン先のパーツの案では、ペンをねじで挟む、角度を使いやすい形に調整できる、既製品のモップホルダーを使う、加えてホワイトボードにかけられるフックもつける意見が出た。
上までリーチさせる支柱の案では、ユニット式にして長さとコンパクトさの確保、支柱にペンで書いているように感じられるガイドを付ける、押し込んで書けるような曲線的な形、支柱内部をクロスした構造にして軽量化するといった意見が出た。
→強度のある分割式支柱+フックの付いたねじで締めるジョイント部で作ることにした。

制作の方向性について


なぜそのアイデアを試すのか

優先すべきことは、疲労なく右手を用いてホワイトボード上部まで有効活用して書くこと。
準備量が多い・右上肢を挙上することを何回もするのは負担感がある。
ペンの延長であれば、手元操作で準備可能、右上肢の活動が最小限であると考える。
また、本人が簡易的ではあるが試したことがあり、作成物に関してのイメージがしやすい。

プロトタイピング


第1回目試作

レクで使うペン(ボードマスター)は、最大径φ27.2mm 全長115mmと太い形状である。 
ペン取り付けユニット2種、支柱ユニット、持ち手ユニット2種(直線とL字)を想定して以下の実験を行った。
実験1
支柱+ペン取り付け角度60度・90度で書きやすく、90度だと持ちやすさが良かった。
実験2
L字支柱 本人が慣れた持ち方ができ、書きやすい。
支柱に関しての意見ー細い方(直径25cm)がぶれにくい
以上踏まえて支柱は13cm3つの微調整可能、横パーツ(直径20cm)をつけられるように横穴開け、ジョイント部を凹凸形、凸を凹-1cmでボンド接着とした。

試作続き

握りやすいグリップデザインも考え、握力25kgに合わせて紙粘土で整形した。
ペン取り付け部の固定用ねじは既製品のM4で広い摂食面積で確実に固定できるようにし、取り付け部の中心から端までの長さを考慮し、ねじ全長を20-25cmとした。
クリーナーも必要になると考え、ペン同様に実験をした。
実験1 クリーナー角度90度では、手でやるよりは負担ない
実験2 クリーナー角度120度では、かなりやりやすい と意見いただいた。

試作続きの2

支柱に関して、3Dプリンターで作成する際の時間が不足する懸念から、代替案として塩ビパイプや新聞紙を支柱にする案があり、一度新聞紙で対応とした。
今までの実験を基に、CADでペン取り付け部の作成を行った。
3Dプリンターでの誤差を考慮してペン設置部の円を直径29cmで出力、M4ねじは厚さ3.3mmだが、3.8mmで出力などの工夫した。

第1回目試作の結果

強度があり、ニードノウアの好みの色であることからPLA Silkでペン取り付け部を作成した(1.5hかかる)。
作成時間の都合上、L字パーツはなくし、同様に支柱はユニット式ではなく1本で、かつ新聞紙にした。
課題として、ジョイント部に新聞紙を巻くため筒の内部が空白になり、強度を確保できない、ジョイント部の円柱の周径が大きく、余計に空白を作ることが判明し、円柱の直径を14cmの変更必要になった。
また、作成物が角張っており、安全でないため、角を取る必要性も生じた。
また、支柱の強度確保として本人より、ラップ用の芯やツッパリ棒はどうかと意見いただいた。

結果


最終完成物

今回の最終制作物

作品名:つかれまペン 本人に名称をつけてもらった。
改善情報ー角を取る、デザインの付加、円柱縮小を実施。

作成後の活動満足度

疲労度/10
COPM 遂行度/10 満足度/10 重要度/10
ほぼ満点

今後の展望

今回の試みでは、ご本人に見た目や職場での使い勝手について満足していただけた段階まで進めることができました。次のステップとして、他の用途にも対応できるようにすること、長期間使用できるように棒の素材を見直すこと、持ち運びのために長さ調整を可能にすることが挙げられます。これらを実現するためには、実際に使用していただいた感想等を反映し、改善点を検討する準備が必要だと考えています。 Power Point スライド

学び

 まさきさんから「ふわっとしていた困難さが形になった。」「今まで周りとおなじように仕事してきたが、少しでも楽に作業を行ってみたいという気持ちが強くなった。」とお話があった。この言葉から、私たちとしても、今回の活動のように、人と困難を共有し、一緒に考えることで新しい発想が生まれることを実感した。
 まさきさんと共にアイデアを形にしていく過程で、「使う人に合った工夫」「使う人の生活背景へのマッチング」が道具価値を高めると学ぶことができた。