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UクリップSTL

Uクリップ

L_レバーSTL

L_レバー

はじめに

12年前、父が脳梗塞で左半身不随になり、当たり前だった日常が一変し、家族にとって出口の無い暗闇の中のようになってしまいました。
当時はいっぱいいっぱいで何かを作る余裕はありませんでした。
既に父は他界していますが、同じような後遺症の方に何か役立つことはできないだろうかと考えていたので今回の製作を行いました。

For whom:誰に

・脳梗塞で左半身不随になった父(右手右足は動くけど、装具をつけても歩行は無理。長時間椅子に座って姿勢を保っていることも難しい状態でした。)
・半身不随、片麻痺の人
・後付けして市販の服をマグネットボタンにしたい人

Why :なぜ作ろうと思ったか


父は仕立て職人

父はオーダーメイドスーツの職人でした。 脳梗塞で半身不随になった後も施設内で介護士さんに手伝ってもらいながら、かつて自分が仕立てたジャケットをよく着ていました。 着ることは大変でも自分が仕立てた服に愛着があったのだと思います。

ショックだったこと

伸びない生地で身体に合うように仕立てられた服は、片手しか動かないと非常に着にくいです。
やはり着るのに苦労するようで、普段父は伸びやすいスエットなどを着ている事も多かったです。
脳梗塞の後遺症によって、父が自分のために仕立てた服が父にとっては着にくい服に変わってしまったということが、私にとってショックでした。

着やすい服が手に入りにくい

父は、右手しか使えなかったため、服を着ることも大変でしたが、服のボタンやファスナーを留めることにも苦労していました。
片手で普通のボタンをはめたり外したりするのは困難です。

片手でも着やすい着替えの服を色々探してみましたがほとんど無く、あっても高価でした。



初めは服作りから

4年前、脳梗塞で半身麻痺になった人でも着やすい服を作りたいと考えました。 しかし着やすくするために服を作ることも、市販の服を加工し直すことも難しい。 市販されているマグネットボタンは、服に取り付けるのに手間がかかります。 (例えば、金属の爪を折り曲げて生地に留めたり、糸で縫い付けたり・・・)
服のボタンを、パチンと留めるスナップボタンやマグネットボタンに変えてみたりしましたが、 他にどんな工夫をしたらいいのか悩みました。 (写真は2年前に作ったもの。袖を通しやすいように脇を開くためスナップやマグネットボタンを付けたシャツ)

マグネットボタン

マグネットボタンは、ボタンホールにはめる一般的なボタンと違って簡単にくっついて留まります。 指が動かしづらい時に取り扱いが楽なボタンの一種です。

こんな物があったらいいな

もしも、取り付け取り外し簡単なマグネットボタンがあれば、市販のお気に入りの服(ファスナー、普通のボタンなど)を手軽にマグネットボタン仕様にすることができるので便利だろうと思いました。
想定では、前開きの上着(シャツ、ジャケット、カーディガンなど)のボタンやファスナーの部分に取り付けます。

自分が着たい服を着て、自分らしく過ごせるのではないか、
ということでクリップ式マグネットボタンの製作を始めました。

How:どのように作成したか


全体と部分のラフイメージを考える

▪︎ クリップ部の構造を考える。
▪︎ マグネット部の構造を考える。
▪︎ 可動部、はまり具合、マグネットと穴のはめ合い。
全体のイメージを考えつつ、部分の構造を決めていきました。

形状(デザイン、条件)

▪︎ 片手で使える。
▪︎ 取り付け、取り外しが簡単。
▪︎ 生地を挟んで固定できる。
▪︎ ボタンどうしマグネットでくっつく。
これらの条件を踏まえてデザインしました。

デザイン、モデリングの失敗

▪︎ 爪1つから4つへ
  初めてプリントした時、レバーに付いている布を押さえる爪が1つだと全くクリップできないことに気づいて爪を4つに増やしました。

▪︎ 構造的な勘違いミス
  マグネット面の段違いの鍵フックの向きが、プリント数回後に逆だと気づいてモデリングし直しました。

そのあとはモデルの微調整とプリントの繰り返しでした。

微調整、モデリングとプリントの繰り返し

▪︎ サイズ(全体、各部の寸法)
▪︎ 穴と軸、穴とマグネットのはめ合い
▪︎ レバーの動き、U字クリップとのはまり具合

これらの微調整を数十回ほど行いました。
特に穴とマグネットのはめ合いがなかなか上手くいかず、手こずりました。

材料・ツール

フィラメント:PLA+
ノズル:0.2mm (0.4mmではあまり上手くいかなかったので、0.2に変えました)
ネオジムマグネット:直径約6mm、厚み約2.5mm(100円ショップで購入)

File

UクリップxLレバー3mf
UクリップxLレバーGcode


Outcome:対象者の変化は?

自分が着たい服の前開き部分に右と左交互にクリップレバーで留めることにより(服の厚みにもよりますが) 自分が着たい服に自分で取り付けられ、好きな着たい服を着て日常をより自分らしく過ごせるようになると思います。

マグネットのはめ方


コネクタ1個目のはめ方

マグネットの面は引きつけられる方向と反発する方向があります。それぞれ同じ方向にする必要があります。
マグネットを4個まとめてつけておきます。 必ず同じ方向の面にマジックで印を付けておきます。 マジックで印を付けた面を下にして差し込んでいきます。 を向けて穴に差し込みます。 まず1つ差し込みます。 他の穴にも同じ方向でマグネットを差し込みます。 マグネットを同じ方向で入れることができました。 対の2個目のコネクタにマグネットを入れます。

2個目のコネクタのはめ方

2個目のコネクタは1個目のコネクタと磁極を合わせます。
1個目のコネクタに1度、マグネットを付けておきます。 付けたマグネットの見える面にマジックで印を付けます。 その印面を下にして2個目のコネクタの穴にマグネットを差し込んでいきます。 4つ全て同じ印面を下にして差し込みます。 対になる2つの面が合っていれば、2つのコネクタは引きつけ合います。

まとめ

父の生活は、脳梗塞の後遺症であらゆるものが不便と困難なものに変わってしまいました。 『服』はその1つです。
父は服作りに生きてきました。その『服』が不自由を強いるものとなりました。
だから今回、デザインそして形にするものは『服』に関するものにしたかったのです。
日常を豊かにするために自分のお気に入りの服を着て、自分らしく生活できる人が少しでも増えたらいいなと思っています。

組み立て方(How to assemble)

U字クリップとレバーの軸のはめ方を説明します。

1・U字クリップとレバーのはめる向きを合わせます。
2・U字クリップにレバーを潜り込ませます。
3・穴の下まで軸をグリグリ広げながら押し込んでいきます。
4・穴の下まで軸が来たら、軸受を上から押して軸をはめ込んでいきます。
5・もう片方の軸も軸受にはめ込みます。