ユーザーNMさんについて

NMさんは、私が経営していた会社の社員でした。2年前に指定難病(EGPA)に罹患し右手右足が不自由になりました。また、網膜中心動脈閉塞症を併発し、右目が見えなくなりました。治療のため退職して懸命に治療とリハビリに励んだ結果、現在はかなり回復し自分で歩いたり、公共交通機関で出かけたりできるようになりました。しかしながら、手足の指先に痺れが残っていて、細かい作業が苦手です。

コンテスト必要事項

対象者
NMさん

なぜ
指先の痺れによって、指先に思うように力が入らないために使っていた道具が、医療用の「ペアン」(写真)と呼ばれる金属製のクリップです。薄いもの、細いものなどはクランプしてから作業をしている。形状がハサミに似ているため、人前で気軽に使うことができず不便を感じていました。そこで、気軽に持ち歩きができて、人前でも使える自助具があれば生活の幅が広がると考え、NMさんと相談して制作することにしました。

どうやって
3Dプリンターでとにかくコンパクトな形状で気軽に持ち歩ける自助具を制作することにしました

成果
NMさんは外出時に持ち歩いて気軽に人前で使えるようになり、日常生活の幅がひろがった

自助具に求められる要件

NMさんにヒアリングをおこない、自助具に求められる要件を抽出した。
1.薄物をクランプした状態でロックされること
2.ゼリー、納豆などの容器のフィルムを挟んで剥き取れること
3.ポケットに入れて持ち運びに適したサイズと形状
4.ロックを容易に外せること
5.落としても壊れないこと

制作プロセス 試作1

試作1
ヒアリング内容をアイデアスケッチ(写真)にして、試作品を制作した。試作1STLデータ

試作1 評価と要望
①ロックの動作が硬すぎる
②ロック解除の際に片手でできるようにしたい

制作プロセス 試作2

試作2
試作1の評価要望を取り入れて試作2を制作した。試作2STLデータ

試作2 評価と要望
①一部指が当たると痛い箇所があるので対策してほしい
②先端部外側に文字追加(片側に入れていた図面バージョンNo.はそのままで。文字など凸凹があると滑り防止になる)
③本体材質を何種類か試してみたい

制作プロセス フィールドテストモデル

フィールドテストモデル
試作2の評価と要望を取り入れて制作した
フィールドテスト1 STLデータ
改善点は写真の①~④
①押すことでロック解除できるようにする :親指で押す部位をテーパー加工とし、容易に押せるようにした(指の太さは個人差があるのでテーパー具合を左右で調整した) ②当たる箇所がある(赤矢印) :角が立っている箇所をすべて丸めた(左右、上下) ③つかむ先端部が見えにくいため肉を落とす :3DCADで角度を確認しながら強度に影響しないように段差加工とした ④滑り防止のため文字は両側面にいれる :先端両側(つかむ部分)に文字を入れて滑り防止とした

造形出力について(1)

3Dプリンターの造形出力設定については材質検討以外は、通してほぼ同じ条件でおこなった
①サポートについて
最小限のサポートになるよう、片面はフラットな形状として、ロック部位に必要なサポートはすべてビルドプレートのみから角度30度閾値でツリー状で生成するように設定。ビルドプレートごと完全に冷却した状態で容易に外せる
②インフィルについて
ロックを外す際に斜め方向に捻じるような動きになるため、根元部分に負荷がかかることが予想されたため、スペースインフィルは3Dハニカムとして、充填密度を25%とした
③モデル造形時間:最適化後21M31S
④フィラメントはPLA,ABS,TPUを同一形状で生成し比較

造形出力について(2)

3Dプリンター要件(Bambulab製で検証)
①ノズルサイズは0.4Φ、積層は0.2㎜が適正。0.6Φノズルで0.3mm積層をすると、先端クランプ部のギザ部がつぶれて再現できない
②フィラメント素材について
PLAで良いが、素材メーカーによって硬度に差があり、Bambulab製フィラメントに最適化した形状にした(特にロック機構部の硬さに差があるため、ロック部テーパーの入れ方など)Bambulab製PLA-Mattがベストマッチ。
クランプロックの際に本体が歪んで、ロック部が逃げるなどするため、TPUは適さない。
ABSで造形するとPLAほどのしなやかさがでないため適さない。

個別対応性について

<ほかの人に適用する場合>
調整するべきFusionのスケッチNo.とフィーチャー編集を明確にする必要がある
→フィレット8,フィレット9、面オフセット4、スケッチ30
これらの設計を微調整することで指の太さに合わせて合わせ込みが可能です

テスト1

ゼリー容器のフィルムを剥がすテストをおこなった。
掴んで剥がす際に巻き上げるようにすることで、容易に剥がすことができることがわかった。

テスト2

おしぼりの袋を破くテストをおこなった
掴んで捻じることで袋を容易に破くことができた

フィールドテスト結果

NMさんに10日間ほど連続で使用してもらってフィールドテストをおこなったところ、以下の改善要望があり。
①かみ合わせ部のギザギザがへたり、ホールド性能が落ちる

フィールドテストバージョン2

フィールドテスト1からの改善点を反映して制作した
フィールドテスト2 STLデータ
先端形状をやや異形とし、把持力を向上させた