モチーフ
蜘蛛の巣をモチーフにしたランプシェードのデザインです。
バイオミミックデザインのランプシェードで何を模倣するか悩んで散歩していた時に
近所の公園で発見しました。
自分の中で一番やりたかったことは「複雑な影を落とす枠の生成」です。
蜘蛛の巣の網の形状の複雑さに法則を見つけ、模倣しようと思いました。
形状以外にいかしたい特徴は
・細い素材で大きいものを捕まえること
・振動を伝えやすいパターンで制作後も揺れること
です。
中間エスキス
最初の中間エスキスの際のモデリング
この時は人工的な枠を作り、その中に無秩序に張られた蜘蛛の巣に電球が引っかかるというデザインでした。人工的すぎる枠が目立ち、ぱっと見で蜘蛛の巣に見えないという欠点がありました。
中間エスキス②
蜘蛛の巣の形をそのまま反映させた案。
コードに固定された蜘蛛から橋糸がかけられ、その間に巣が張られ電球を引っ掛けます。
光をあまり遮ることが出来ず、非常にまぶしいです。
このときに、
没案としていた「無秩序な網」を使うと、電球が上を向くことも可能となり下方向への光を弱めることが出来るのではないかとのアドバイスをいただきます。
いずれにせよシェード部分に工夫が必要です。
ルール・法則
蜘蛛の糸は足場糸と呼ばれる縦糸と、獲物を捉えるための横糸に大きく分けられます。
蜘蛛の巣を構築する上で先に縦糸を張り、それをベースに横糸を螺旋状に生成します。
「縦糸と横糸により規則的に張られる網の形」を抽出します。
面の張り方
縦糸と横糸とは、一般に張られている蜘蛛の巣に対して命名したものです。
この形の蜘蛛の巣は飛んでいる虫を捉えるためのものであり、飛んでくる虫に対して垂直に面が張られていると考えました。
電球の光を捉えるための面
今回、網で捉えるものは電球から出る光線です。
光源から放射状に広がる光線を捉えるには板状の面ではなく球状の面ではないかと考えました。
縦糸と横糸と呼んでいたx_line,y_lineはu_line,v_lineと再定義し、球に張られる縦糸と横糸の法則を残しています。
参考事例
同授業の履修者の方のスタディ過程のランプシェード。
ここから、光を遮る形としてドーム型に糸を張るという発想を得ます。
全体図
組み立ての想像
解決すべき問題を三カ所に分解して考えます。
上側から下側、内側から外側に組み立てていくとすると、それらの問題を解決すべき順番がわかります。
①ケーブルに対して蜘蛛の留め方
②蜘蛛に対して電球、ケーブルの留め方
③電球、ケーブルに対して巣の囲み方
①ケーブルに対して蜘蛛の留め方
ケーブルの両端は分解してもケーブルのみを取り出すことが出来なかったことから、蜘蛛は横からはめる形にしなければいけません。
横からはめれて、且つ下に落ちてこない形を考える必要があります。
蜘蛛は電球とケーブルを支えるはずなので、自重だけでなく電球の重み(155g)のことも考えます。
②蜘蛛に対して電球、ケーブルの留め方
ケーブルに固定した蜘蛛の足から伸ばした糸でケーブルと電球を支えます。
電球を支えた場合、蜘蛛の足、電球どちらから外れても電球は落ちてきてしまうためどちらからも外れないようなジョイントを考えなければいけません。
③電球、ケーブルに対して巣の囲み方
蜘蛛の枠は最後に作るため、囲う手順を考えなければなりません。
①既にある電球、ケーブル、テグスに対してその周りに直接作る
②別のところに作ってあとからはめるために切断し接着する
まずは難易度の低そうな②の方向で考えようと思います。
マテリアルの選定
針金、たこ糸、テグスの比較。
くせのつきやすい形のため繊細な操作はしづらそうですが、一番蜘蛛の糸っぽいためテグスを選択。
モデリング
蜘蛛のモデリング。六本木のオブジェを参考にデフォルメします。
満たす条件はケーブルに横からはめれるということと、足にテグスを巻けるということ、重さのバランスを取るために足は放射状に均等な間隔で並んでいるということ。
足の先にテグスを結ぶことを見据え、その部分のみを細くすることで巻きやすくします。
3Dプリンタで出力しやすいように足と体の部分の高さをそろえ、ひっくり返してSTLデータを作ります。
六本木ヒルズのパブリックアート
ルイーズ・ブルジョア氏によるもの
デジタルファブリケーション
maker bot社のreplicator 2Xを使用。
足の先の糸を巻く部分をきちんと成形してくれています。
素材は熱に近いところに置くことを想定し、ABS(サインスマート)を選びました。
ジョイント①
テグス部分は釣り糸の結び方を参考に『スネルノット』で結びます。
ジョイント②
3Dプリンターで作った蜘蛛をコードに固定するためのケーブルタイ。
一度結ぶとほどけず、結んだところからもずれにくいと思いました。
組み立て①
コード、電球を重力に逆らう形で吊ります。
テグスは非常に目立ちにくく、無事、不自然な形で空中に形を留めているように見えました。
巣の部分の作成
あとからはめる必要があるということは、
一度別の場所で作った巣を切断し、溶接し直す必要があります。
参考事例のように風船に対して糸をのり付けして乾いてから割るのではなく、
3Dペンで作った後、溶かして切断・溶接する方が手段として適切と考えました。
作成スタディ
サッカーボールに対して3Dペンを当ててみます。
書くことは出来るのですがサッカーボールの表面も溶かしてしまい、綺麗に剥がすことは出来なさそうです。そもそも大きさが足りていないためサッカーボールは没にします。
作成スタディ
風船に3Dペンを当てます。
ガイド線となる巣の形はたこ糸とサインペンを使って書きます。
しかし、3DペンはABSを溶かす際ペン先がおよそ240℃まで上がるために風船に少しでも強く当てると割れてしまいます。
作成スタディ
案の定割れてしまいました。
作成スタディ
素材をABSよりも融点の低いPLAに変えることでペン先の必要温度を下げます。
ultimaker2用のPLA 2.85mm(silver metalic)を使用
作成スタディ
素材をPLAに変えると難易度が少し下がり、横糸まで進めることが出来ました。
また、この時点で割れてしまったのですがちゃんと曲面を残したまま取り出せることが判明します。慣れてくると最後まで進められそうです。
作成スタディ
ABS時代から数え、風船14個目にして一周に成功します。
ただしこれではまだ光を遮ってくれるのか不安な密度だったため、もう一周することを決意します。
作成スタディ
結果的に三周しました。この状態で風船を割ります。
作成スタディ
取り出した巣を光りに当ててみます。
両頂点の部分がかなり蜘蛛の巣っぽいのでこの形で決定しました。
3Dペン
巣の部分は3D Doodlerを使って表現します。
この機材で扱える素材はPLA/ABSです
完成
電球・コードに引っかかりそうな部分を溶かして切断し、横からはめたあとに切断した部分を再び溶接します。巣に対して蜘蛛が乗っているように見せるため、巣と蜘蛛の足も溶接しました。
ディテール
3D Doodlerを使用してディテールを加えます。
ペン先を蜘蛛の巣に当て、PLAを溶かして出力した瞬間下に引き延ばし、細く軽い垂れ糸を表現します。
点灯