1.目標

 昨年のエッグドロップパッケージの優勝作品が高さ10mだったため応募作品の目標は10m超とした。

2.方法

 落下高さ10m超を実現するための手段として2つの方策を用いることとした。

a.羽

 10m超を実現するには空気抵抗を利用し一定速度に落ち着かせること、つまり重力と空気抵抗を拮抗させることが必要である。そのため羽を付け、回転させながら落下させることで実現しようと考えた。これは3Dプリンターで作るには大きさの制限こそあるが実現は比較的たやすい。

b.クッション

 卵の殻を割らないためには落下の衝撃を点で受けずに全体でくるむように受けることが有効であるが、大小さまざまな形状の卵をくるむように受けるにはフレキシブルなクッション材を使うほかないと考えた。問題は3Dプリンターでどう実現するかであり、本プロジェクトの要となるところである。

3.実現案

 2つの方策を実現するため以下の案を考案した。

a.羽の形状と大きさ

 形状、大きさは使える3Dプリンターのベッドサイズ(150×130)の制限がある以上、これに合わせざるを得ない。羽は6枚つけることとし、1回のプリントで3枚作製できる最大の形状、大きさとした。
 また、羽の角度は20°と35°の2種類作成し実験で決めることとした。

b.クッション材

 3Dプリントでクッション材を実現するため、(1)平板網状のシートをプリントし、卵を包む方法、(2)ばね性のある小片を多数詰め込む方法の二通りを考えた。

c.入れ物

 全体はたまごの2倍ほどの大きさのカプセルとし、クッション材と卵を入れられるようふたを儲け、ふたには羽を6枚取り付けられる形状を考えた。カプセルのサイズも3Dプリンターの最大造形サイズ(150×130×高さ100)の制限を受ける。

4.設計

 実現案に即し、3D設計を行った。

a.カプセル、羽、ふた

 カプセル本体、羽(6枚)、羽取り付け部を設けたふたとロックリングの設計は問題なくできた。羽は20°と35°の2種類が付け替えできる構造とした。また、ふたを開け閉めする方法は一般的なねじ式ではなく、3Dプリントしやすくかつ強固な形状を考案した。

b.網状シートの設計

 網状のシートで卵をくるむためにはシートを立体裁断するようなイメージを持った。しかし、クッション性を持たせるにはその"しわ"を利用しなければならない。平板六角網目のシートを設計してプリントしてみたが、その先が難しそうなので一旦保留とし、バネ状小片の設計に移った。(最終的にはバネ状小片がうまくいったため網状シートは中止した。)

c.バネ状小片の設計1

 3Dプリンターで小さなコイルスプリングをプリントするのは難しい。平面上にプリントしてばね性を得ることを考え、写真のようなクッションピースを設計した。数量が多く必要とされることが予想されたためベッド上に9×10個並べてプリントできるようにした。

d.バネ状小片の設計2

 クッションピースはいくつかが平板状に重なることを防ぐため一部立体的な部分を設け、さらにプリント後に曲げを入れることとした。こうすることによりピース同士がより立体的に絡み合うことを期待した。また、バネの線径とでも呼ぶべき部分を0.4mmとしたためプリント時に一筆書きできない部分ができることになる。ここは強度が弱くなることが予想されたため、前述の立体的な部分を重ねることにより補強する構造とした。(写真、十字中央の円錐形立体部分)

5.実験~試作1号機から4号機


a.1号機~4号機の仕様

 最終機(5号機)に至るまで4種の試作品を作った。
 1,2号機と3,4号機の制作の間には落下実験2回を挟んでいる。
 1号機 羽角度35°
 2号機 羽角度20°
 3号機 羽角度35°アブソーバーA、B付き
 4号機 羽角度20°アブソーバーA、B付き
 【補足1】すべての号機とも、中にクッションを入れている
 【補足2】3号機、4号機からはクッション材がふたに挟まらないよう内蓋を追加している
 【補足3】カプセルはアブソーバーをつけられるように改良した

b.試作機の実験結果

 1回目 1号機 姿勢を崩して落下し大破
        卵NG
 1回目 2号機 ふたが外れ卵が外に飛び出る
        卵NG
 2回目 2号機 ケース、羽が小破
        卵OK
 
ーこの間、アブソーバー付きの3号機、4号機を設計ー

 3回目 3号機 姿勢を崩して落下し大破
        卵NG
 3回目 4号機 ケース中央部が割れ卵が外に出る
        卵NG

 (1回目と3回目は2機を同時に落としている)

 落下高度はすべて9m。(10m以上で安全に実験ができる場所がなかったため。)

c.試験結果の考察

  • 羽角度35°と20°との落下速度差を見極めるため実験1回目と3回目は2機同時に落下させている。しかし羽角度35°は落下姿勢が安定せず、羽角度20°を採用した。
  • 実験2回目(2号機)は成功するもカプセル(と羽)にクラックが入る。このためカプセル保護のためアブソーバーをつけることとし3回目の実験を行った。
  • 実験3回目(4号機)はアブソーバーを付けるもカプセル中央で割れた。事前の観察よりプリント時の積層不良が見られそれが原因と推定した。
  • プリント条件はまだ改良の余地はあるがその検討には時間がかかるためアブソーバーの改良と材料の変更(ABS→PLA)で最終試験を行うこととした。

6.最終実験


a.5号機の仕様

 今までの結果を踏まえ5号機を制作した。
 羽角度         :20°
 アブソーバー      :改良タイプ(バネA+バネB+円盤)
 カプセル、ふた、羽の材質:PLA

b.結果

 9mの高さから落下。成功。
 羽とアブソーバーの一部が破損。カプセルは無傷。

7.まとめ

 5号機で9mの高さから落として成功した。
 アブソーバーなしの試作2号機で成功しているためプリント(積層)さえうまくいけば問題ないことはわかっていたが、最終的にはアブソーバーをつけたことで確実性を増すことができたと考える。
 また、ビデオ画像の大まかな解析からは落下最終速度が一定になっているように見られた。このため更なる高さへの可能性も残していると考える。

8.検討課題 (10月17日 追記)

 コンテスト締め切り日が10/17に延長されたため、少し改良を検討した。検討課題は落下姿勢の安定性向上である。

a.背景
 以前の実験で羽角度35°と20°の比較を行い、姿勢の安定の観点から羽角度20°を採用した。しかしながら、落とし方により姿勢が乱れる懸念が残っている。

b.方法
 航空機主翼の後退翼の考えを取り入れ、羽内周より羽外周を後退させる(持ち上げる)こととした。後退翼

c.予想される弊害
 落下速度が速くなる可能性があるため後退角度を15°に抑えてみた。簡単な実験では回転速度が落ちるように見えた。コンテスト用に採用するにはリスクが大きいので今後の検討課題とする。

9.実践大会の結果 (11月12日 追記)

 11月11日、慶応大学湘南藤沢キャンパスにて実践大会が行われた。参加者、スタッフ、審査員らが集まり楽しく行われた。そんな中、CBACの結果は以下の通りとなった。

結果

17mの高さに挑戦し玉砕!(文字通り砕け散った)
上から落とした直後はきれいな姿勢を保ち回転し始めたが、着地の瞬間砕け散るのが見えた。
下で確認すると、ふたは外れ、羽は6枚とももぎ取られ、カプセルは無事で卵は中にとどまるも上の部分が割れていた。

要因

 回転速度が上がり着地の瞬間、本体にブレーキがかかり、羽の回転慣性でふたは外れ羽はもぎ取られたと推定する。
 挑戦前の不安要因、(1)落下姿勢の乱れ、(2)プリント状態、(3)クッションの詰め方、のどれでもない要因で失敗するから現実は面白い。

反省点

  1. 兆候を見落としていた。1回目の実験でふたが外れたときがあったが何気なく閉めていたためだと思い、そのあとの実験ではしっかりと締めるだけにとどまった。
  2. 設計をやり直さなかった。ふたのロック方向と羽の回転方向が逆で、羽の慣性で外れる方向にあることはわかっていたがロック方式を過信していたためそのままにした。
  3. 10m以上の時の挙動を甘く見ていた。垂直衝撃だけに目がいき、そのため回転数の増加がどんな影響を与えるか予想できなかった。
  4. 落下面の条件違い。これはいいわけになるが実験では硬いアスファルト面に落としていた。実践大会では板にブルーシート。着地時の回転に対する抵抗が相当大きかったと思われる。

10.STLデータ (11月18日 追記)

 本文中の一部の語句を追加して全STLデータを追加した。但し、クッションピースのみなぜかエラーが起き追加できなかった。