この自助具を製作しようと考えたきっかけ

わたしの友人であるA君は、生まれつき片腕がない。
普段A君は革靴を履いているが、ある日スニーカーをはいていた。
A君のスニーカーをよく見ると「結ばなくても履くことのできる靴ひも」が使われていた。
本人曰く「靴ひもを結ぶのは一人では難しいからしょうがない…」とこの特殊な靴ひもを使っているらしい。
市販されているスニーカーには、基本的にそのスニーカーのデザインにあった靴ひもが使用されているため「別の靴ひも付ける」ことはあまり気持ちの良い、カッコいいものではない。

私はA君のように障害によって理想の生活を送ることのできない人達の悩みを自助具を使い解決できたら良いなと思い、今回制作に取り掛かった。

自助具の在り方、背景について

先ずは現在の「自助具」の在り方について調べることとした。
インターネットで「自助具」と調べると「弱い力でも握れるスプーン」や「ペットボトルを開けられる器具」など生活の「問題を解決する」ための製品が沢山出てきた。

しかし、どの器具も「最低限、生活を送りやすくなる」ための器具ばかりで、どこか悲しい気持ちになった。
「障害がある=普通に生活できることに感謝してそれ以上は望んではいけない」というような雰囲気を感じてしまったからである。
障害があっても食べたいものもがあるし、履きたいスニーカーだってある。
現在のユーザーが求めているのはそういった「個人個人の願い」を叶える自助具なのではないのだろうか

ペルソナユーザーの設定


ペルソナユーザー

わたしは自助具を作る前にペルソナユーザーの設定を行った。

設定
お洒落が大好きな大学生。しかし、障害のせいでどこか「すべてのことに諦めてしまっている節がある」

ユーザーの願い
自分らしいおしゃれを楽しみたい。人に頼らず楽しむことのできる製品が欲しい。

プロトタイプの制作


必要な3つの条件

自助具を作る際以下3つを条件に考えをまとめていくこととした

1 どこでも使うことができる器具であること
靴ひもはいつどこでほどけるか分からないため、手軽に結ぶことのできる自助具でなければならない。

2 靴に付けて持ち運べること
使う際に毎回取り出すのではなく、靴に常に取り付けておくことで、いざという時にいつでも使える自助具でなければならない。

3 身に着けたくなるようなデザインであること
おしゃれを楽しむ自助具である以上、想定しているユーザーが身に付けたいと感じるようなデザインでなければならない。

ラピッドプロトタイプの制作

まず初めに、「どこまで片手でひもを結ぶことができるのか」の検討を行った。
片手でひもを結ぶ際、以下の二つの問題点が挙げられた。

・ひもを引っ張り締める(結ぶ)ことができない
・片手だと通したひもがぬけてしまう(押さえていられない)
以外にもひもを引っかける、通すといった動作は片手でも簡単に行うことができた。

以上のことから
私は片手代わりの支えてくれるパーツを取りつければ片手でも靴ひもを結ぶことができるのではないかと考えた。
そこで私は洗濯バサミをかたうでの代わりとして取り付けることにした。
その結果、見事片手での靴紐結びに成功した。

今回はこの「洗濯バサミ」をベースに自助具を考えていく。

制作にあたっての決定事項

最終的に以下の3つを決定事項とせて自助具を制作することにした。

1 既製品をパーツに使用していること
靴に常に付けていることを考えると、3Dプリンターで印刷したパーツのみでは耐久性に不安があるため、既製品をベースにすることにした。
今回は洗濯バサミだと大きすぎるため、目玉クリップを使用することとした

2 靴に対して違和感のないサイズ感であること

歩いている時に不快感が生まれないようサイズ感が大きくなりすぎないように心掛けた。
基本的に40mm×40mmに収まるよう調整を行った。

3 結ぶ工程が複雑ではないこと
外出先でもすぐに結ぶことのできるよう、使い方が複雑にならないよう心掛けた。

デザインの検証


スニーカーに使用される形のリサーチ

次に「スニーカーに使用される形のリサーチ」を行った。スニーカーに自助具を装着した際、自助具がスニーカーに対して悪目立ちをしないようにするため、実際に販売されているスニーカーからデザインのヒントを探した。

リサーチから分かったことは以下の3つである。
・直線的なデザインは少ない
・大きなカーブが使用されている場合が多い
・3角形と円が形のベースとなっている場合が多い

アイデアスケッチ

上記のリサーチもとにアイデアスケッチを行った。

いくつかの検証モデル

以上のことを踏まえてモデルの検証を行った。

モデルに必要されていることは「ひもを固定できる形状である」ということである。
ひもが固定しやすくなるようくぼみや曲面の調整を行った。

1 クリップの持ち手部分を挟み込むような形状を考えた。しかし、耐久性に難があった

2 クリップの持ち手に差し込むタイプへと変化した。

3 スニーカーに装着することを意識したデザインを取り入れた

4 くぼみの大きさを調整した

5 更にくぼみを大きくしひもが固定しやすくなった



完成品


完成品

最終的に仕上がった自助具がコチラである。
自助具でありながらもアクセサリー感覚で楽しむことのできるデザインに仕上がった。
3Dプリンターを使用しているため、様々なカラーバリエーションやスニーカー一足一足に合わせた細かな調整が可能となっている。

A君にはこの自助具を使って「スニーカーをはいて外出すること」を思いっきり楽しんでほしい

こだわったポイント

形状には細かなこだわりが沢山ある。
まず初めに曲面を多用しているという点である。
や横から見てみると背面以外ほとんど曲面的である。

また、窪みに引っ掛けたひもが抜けにくくなるよう、深めの溝を設けた。

クリップの持ち手を下に空いている穴から装着して使用することを想定している。

完成品 STLファイル

STLファイル