課題・テーマ決め

私たちは、鎌倉における課題の調査を行った。その中で「海辺にごみ箱が少ない」という現状に着目し、「鎌倉のごみ問題」を解決したいと考えた。特に、メンバーの多くが関心を持っていた「海のごみ問題」に注目した。

フィールドワーク

海のごみ問題の現状を踏まえ「海ごみを減らす」を目標とした。そこで私たちが注目したのが、ビーチクリーンである。しかしビーチクリーンは身体的な負担が大きく、それにより参加のハードルが高く、継続的な参加を難しくしているのではないかと考えた。 これは、メンバー自身の経験に基づく仮説である。この仮説を検証するため、私たちは自主的にビーチクリーンを開催した。 その結果、現在のビーチクリーンには「楽しさ」が十分に感じられず、参加者が「また参加したい」と思いにくいのではないかと考察した。 そこで、「ビーチクリーンを継続できない人でも楽しみながら、継続できるようにしたい」という目標を立て、プロダクト制作を行った。

1stプロトタイプ「つcamination」

「ごみ拾い(ビーチクリーン)」と「コミュニケーション」を掛け合わせた「つcamination」を製作した。

ユースケース

つcaminationは、ビーチクリーンに参加する人が、トングでごみをつかむ行動を「ポイント化」し、他のつcamination使用者とポイントで対戦できる装置である。地味になりがちなごみ拾いをゲーム化することで、単なる作業としてではなく、楽しみながら意欲的に清掃活動に取り組めるようにすることを目標とした。

使用物品

・トング×2・Micro:bit×2・超音波センサー×2・3Dプリンタで作成したMicro:bitケース×2

機能①

プログラム:
インプット・・・
トング中腹に設置した超音波センサーによってトングの開き具合を測定し、「ごみを掴んだ」と判断された場合に、ポイントが加算される。

アウトプット・・・
①ポイントを得た瞬間に、コインを獲得した時のような音が鳴る。
②自分が獲得したポイントと、他のつcamination使用者のポイントがそれぞれLCDに表示される。
③トングをすばやく開閉した場合「ポイントを不正に稼ごうとした」と判断され、ペナルティとして10秒間のポイント獲得が無効となる。同時に、10秒間のタイマーが鳴る。


実証実験①

参加者は主体的にごみを拾い、積極的に交流をしていた。その様子から、「つcamination」がなくてもビーチクリーン自体が十分に楽しい活動であることが分かった。また、「ビーチクリーンは、できる人ができるときにやってくれればいいのではないか」という参加者の声もあった。これにより、「ビーチクリーンを継続できない人でも楽しみながら、継続できるようにしたい」という私たちの目標は、前提からずれていたことが明らかになった。

実証実験②

プロダクト面では、Micro:bitを格納するボックスによって持ちにくさが生じていた。また、蓋がない構造のため、雨天時には使用できないこともわかった。 さらに「ポイントで、他のつcamination使用者と競争する」というゲーム機能が、交流を促進するどころか、「ごみを拾ってポイントを稼ぐこと」を優先させてしまい、その結果として交流が減ってしまっていると痛感した。

課題の再設定

実証実験の結果、ビーチクリーンは参加者にとってすでに楽しい活動であり、交流も自然に生まれているということに気づいた。そのため、私たちは「ビーチクリーンを楽しくする」という課題設定を見直した。 そこで「そもそも海ごみはどこから来るか?」という疑問を持ち、ごみが海に到達するまでの経緯を調査した。その結果、ごみは人々が生活する陸地から川に流れたり、風で運ばれたりすることで海に流れ着くことが分かった。 さらに、「陸のごみ」に着目して調査を進めたところ、不法投棄される、ごみ箱のあふれなど、然るべき方法で処理されていないごみの存在が明らかになった。そこで私たちは、この「陸のごみ問題」に取り組むことにした。

コトオコシ鎌倉さん

私たちがリサーチを進める中で、「コトオコシ鎌倉」という団体に出会った。この団体は観光客と地元住民の対話を重視し、お互いを理解し合うことを目的としている。相手を理解する交流を積み重ねることで、国同士の分断をなくすことが目標である。その活動の一つに、「いちごみいちえ」というごみもらい活動がある。この活動では、観光客からごみを受け取ることで、「ありがとう」という言葉や自然な対話を引き出すことを目的としている。「いちごみいちえ」という名前には、観光客との一期一会を大切にという思いが込められている。

フィールドワーク

私たちは、1月18日に「いちごみいちえ」の活動に参加した。 ごみを受け取る際に、多くの観光客の方から「ありがとう」という言葉をいただいた。メンバー全員が「これほど多くの『ありがとう』と言われたのは初めて」と感じるほど、非常に印象的で嬉しい体験であった。

しかし一方で、「ありがとう」という言葉は生まれるものの、団体の理念である「ありがとうの後の交流」や「相手のバックグラウンドを知るような深い会話」にはつながらなかった。 さらに、分別ごとにごみ袋を持って活動していたが、ごみを受け取るタイミングで分別を行うことが難しかった。最終的には参加者が活動後にまとめて分別を行う必要があった。

ごミュニケーション1st


アイデア出し

フィールドワークで感じた課題点をもとに、どの点にアプローチするかを検討した。 その中で私たちは、「ありがとうの後の交流が生まれないのは、参加者がごみ分別に集中することで、観光客と交流する時間が減っているのではないか」と仮説を立てた。そこで、観光客自身にごみ分別を行ってもらうことで、参加者が交流に集中できる環境を作る『ごミュニケーション』を製作した。

ユースケース

ごミュニケーションは、タッチパネル(発信機)とごみ分別装置(受信機)の2つで構成される。「いちごみいちえ」の参加者のうち、1人がタッチパネル、1人が分別装置を持って活動する。観光客にタッチパネルをハイタッチしてもらうことで信号が送信され、ごみ分別装置の蓋がごみの種類ごとに開く仕組みとなっている。これにより、観光客自身でごみを分別して捨てることが可能となる。

機能①

タッチパネルにはマークの裏に静電センサーが付いており、肌が触れたことを検知して分別装置に無線で信号を送る。当初は指で触れる仕様を想定していたが、反応にばらつきがあった。そこで、手のひら全体で触れる「ハイタッチ形式」に変更することで、接触面積を増やし、反応の安定性を向上させた。

機能②

分別装置は、受信した信号に応じて可動式の蓋が開閉する仕組みである。
信号①では蓋が90°開き、ごみは真下に落ちて分別される。
信号②では40°の角度で開き、ごみは滑って別のごみ袋へ入る構造となっている。
側面のスイッチによって蓋を元の位置に戻すことができる。

実証実験①

観光客から多く回収するごみが、「燃えるごみ」と「プラスチックごみ」であることから、この2種類に絞って検証を行った。 その結果、タッチパネルにはいくつかの課題がみられた。ごみや荷物で両手がふさがっている観光客にとって、ハイタッチ動作は行いづらかった。また、不特定多数が触れる部分に抵抗を示す人もいた。さらに、どのボタンがどのごみの種類に対応しているかが直感的に分かりにくいという課題も明らかになった。

実証実験②

その場で分別を行えるため、危険物の混入リスクを低減できるという利点が確認された。
一方で、飲み残しの液体が蓋に付着し、不衛生に見える可能性があった。また、40°の構造では、大きな容積のごみが詰まりやすく、無理に押し込むことで装置の破損(サーボモータへの負荷)につながるリスクも明らかになった。

実証実験③

子どもは装置の動きに強い関心を示し、自らごみを捨てに来る様子がみられた。このことから、年齢を超えた交流のきっかけが生まれていた。さらに、「分別させる」の機能が、目新しさや話題性から会話するきっかけが増え、結果として「交流のツール」となった。

しかし、その会話はプロダクト自体に関する内容に留まりやすく、深い交流へと発展しないという課題が残った。

課題の再設定

オンラインミーティングや内部審査会を通して、プロダクトが解決すべき課題の本質を十分に捉えられていないことに気付いた。

コトオコシ鎌倉さんとのミーティング

いちごみいちえの活動を中心的に行っている、上岡さん・染谷さん・れいこさんにインタビューを行い、活動の理念や課題について伺った。
上岡さん
「多くの人とコミュニケーションを取りたいが、言語の壁によって話しかけることが難しい」
「会話のきっかけとなるプロダクトがあると嬉しい」
染谷さん
「一人ひとりの顔が見えるコミュニケーションがしたい」
「一人ひとりに向き合うことで、自分の経験や視点を広げたい」
「少人数でいちごみいちえを開催したい」
れいこさん
「プロダクトを長時間(約1時間半)持ち歩くのは負担になる」
「肩にかけられるなど、持ち運びしやすい形だと良い」

ミーティングから

ミーティングで得られた意見をもとに検討を重ねた結果、「言語の違いがあることによって、観光客に話しかけることへのハードルが高まっている」という課題に着目した。
特に上岡さんの「多くの人とコミュニケーションを取りたいが、言語の違いによって話しかけることが難しい」という課題は、いちごみいちえの理念である“交流を生み出すこと”を阻害する本質的な要因であると考えた。
そこで私たちは、「言語の違いによってコミュニケーションが生まれにくい」という課題の解決に取り組むこととした。

ごミュニケーション2nd


アイデア出し

上岡さんの課題を解決するため、言語に依存しない非言語コミュニケーションを活用した機能の導入を検討した。そこで、イラストを描くという非言語コミュニケーションをプロダクトに追加することを決定した。また、1stプロトタイプで好評であった「ハイタッチ」というボディランゲージに着目し、 これをプロダクトの中心的な機能として継続することとした。一方、衛生面への懸念からタッチパネルに触れることに抵抗を感じる人への対応も必要であると考え、新たなコミュニケーション手段の追加を検討した。その上、「少人数でもいちごみいちえを行いたい」というニーズに答えるために、プロダクトを一人で運用できる仕様に変更することにした。

追加機能

①手を振り合うことでごみ箱の蓋が開き、ごみの分別が可能となる機能
②ごみを捨てたあとに、観光客がプロダクト側面の紙にイラストを描くことができる機能
③分別装置を身体に装着できるようにし、持ち運びやすさを向上させる機能

材料

・板材(レーザーカット用) ・Micro:bit ×3 ・静電スイッチ ×2 ・物理スイッチ ×1 ・サーボモーター
・3Dプリンタで作成したアタッチメント ・発泡スチロール ・45Lごみ袋 ×2 ・クリップ ×8 ・腰ベルト
・首ベルト

ユースケース

観光客にごみを分別してもらう際に、両腕に装着したタッチパネルにハイタッチしてもらう。一方でタッチパネルにハイタッチすることに抵抗がある人に対しては、お互いが手を振るというボディランゲージを用いることで、ごみを分別できるようにする。さらに、交流のきっかけを生み出すために、紙を装填する枠をプロダクトに追加し、装填した紙に観光客がイラストを描くことができる仕組みを取り入れた。描いてもらったイラストを話題として活用することで、観光客との会話や交流の促進を図る。

機能①

1stプロトタイプの分別装置と分離していたタッチパネルの代わりに、両腕にタッチパネルとMicro:bitを装着した。タッチパネルを発泡スチロールにすることで、汚れても取り替えることができる仕様とした。観光客にハイタッチしてもらうことで分別装置の蓋が開き、分別を行うことが可能となる。また、接触に抵抗がある人に対しては、ハイタッチの代わりに手を振ることで、分別を行うことができるようにした。

機能②

ごみ回収後の交流を生み出すため、プロダクト側面に紙を装填できる枠を追加した。上岡さんの「言語の壁から話しかけられない」という課題に対し、言語に依存しない非言語コミュニケーションとして“イラスト(絵)”に着目した。 イラストは世界共通で用いることができる表現であり、これを活用することで、観光客との交流を促進できると考えた。

機能③

タッチパネルと分別装置が分かれていることで、いちごみいちえを開催する際に多くの人数が必要になってしまう。分別装置を長時間持ち続けるのは負担が大きいという意見もいただいた。対策として、首と腰で分別装置を支えることができるようにベルトを追加した。ベルトと機能①の両腕につけたタッチパネルによって、一人でプロダクトを使用することができるようになった。

実証実験①

3月15日の「いちごみいちえ」にて、2ndプロトタイプの実証実験を行った。 当初はイラストとメッセージの両方をプロダクト側面に設置する紙に描いてもらうことを想定していたが、メッセージは言語を介するものであるため、「非言語コミュニケーション」という目的に合わないと判断し、イラストのみを描いてもらうことにした。絵を描く際に観光客に、何を描けばよいのかわからないなどの困惑をもたらさないために、イラストのお題を提示した。お題は、"What’s your favorite things in Kamakura"に決定した。

実証実験②

観光客に正しくごみの分別をしてもらうことができた。 また、装置を身体に装着したことで両手が空き、1人でタッチパネルと分別装置の役割を担うことが可能となった。さらに、「あれはなんだろう」「おもしろい」といった反応を観光客から得ることができ、プロダクトが興味を引くきっかけとなっていた。中には、「分別が大事なんだね」といった声もあり、分別意識の向上にもつながった。

実証実験③

腕のタッチパネルへのハイタッチ機能に対して、興味を持ってくれた観光客がいた。手を振る機能は、非言語コミュニケーションによる交流のきっかけとして設計した。しかし、実際には、タッチパネルへの接触を明確に拒否される場面が少なく、手を振る機能は主にプロダクトの使用者側が蓋を開閉するための操作として使われていた。また、ごみ回収後にイラストを描いてもらうには話題転換が必要となり、その際に言語によるコミュニケーションが求められた。その結果、イラストを描いてもらえたケースは限定的であった。

実証後のミーティング

実証実験の後に、「コトオコシ鎌倉」の方々とミーティングを行い、プロダクトの感想と活動の目的について再確認した。その中で、「ありがとうの先の会話を増やすこと」ではなく、「相手のことを知ること」自体が目的であるという本質に改めて気づいた。また、上岡さんから「観光客に相手の言語で『ありがとう』をどのように言うのか聞くのはどうか」という提案を頂いた。

実証からの気づき


案出し

「ありがとう」の先の会話ではなく、「相手のことを知る」ことを目的にしたプロダクトとなるように2ndプロトタイプの改善を行った。その中で、相手が普段使用する言語を知ることは、「相手のことを知る」ための一つの手段であると考えた。また、「ありがとう」は誰もが言われて嬉しい言葉であり、さらに自分の国の言語で話しかけられることは、相手にとって特別な体験になるのではないかと考察した。

機能

2ndプロトタイプにおいてイラストを描いてもらった箇所に"How do you say 'Thank you' in your language?"と記載した紙を設置した。 観光客に自国の言語で「ありがとう」をどのように言うのかを教えてもらい、その言葉を用いてお互いに「ありがとう」を伝え合うことを目指した。

その後のミーティングで

実証直後は、「相手を知る」ためにはイラストよりも「ありがとう」を言い合う方法の方が適していると考えていた。しかし、ミーティングを通じて再検討した結果、イラストを描いてもらうこともまた、「相手のことを知る」ための有効な手段の一つであると気づいた。さらに、「相手を知る」方法は1つに限定されるものではなく、複数のアプローチが可能であると考えた。 「話しかけやすさ」と「相手のことを知る要素」の両方を含めることで、「相手を知る交流」が生まれるのではないかと考えた。

これからの展望

コトオコシ鎌倉さんの理念である「相手のことを知る交流」を、より一層促進できるプロダクトの開発を目指していきたい。
そのためには、イラストを描いてもらう際に観光客へ提示するお題の工夫や、「相手のことを知る」ことにつながる新たなコミュニケーションの手法を検討していく必要がある。 今後は、「話しかけやすさ」と「相手のことを知る要素」の両方を含んだコミュニケーションの手法を取ることで、「相手を知ることができる交流」を生み出せるプロダクトへと発展させていく。

私たちが目指すこと

私たちの目標である「いちごみいちえ参加者が最初の一歩を踏み出し、観光客とお互いに『相手のことを知る交流』ができること」には、まだ至っていない。 しかし、この半年間の活動を通して、「ごみを通して交流のきっかけをデザインすること」の可能性を実感した。今後も、「相手のことを知る」交流の方法を探求し続けていく。