Title :タイトル「1つで7役!回転式!掬う、打つ、握る、剃る、書く、留める、飲む、オールインワンハンド自助具」
For Whom : 対象者
上肢や手指の機能に制限があり、日常生活動作に不自由を抱えている者。例えば、麻痺や怪我などによって握力が低下した者や把持力が低下した者。またそれらに伴い手指の巧緻性が低下し日常生活に不自由を感じている者。
Why : なぜ作ろうと思ったのか
既存の自助具を調べる中で、カトラリーホルダー、キーボードタイピング補助具、歯ブラシホルダーなど、多くの自助具が「手に装着して使用する」という共通した構造を持つことに着目した。そこで、この共通点を一つの設計に集約し、複数の役割を一つの「ハンドホルダー」で代替できるのではないかと考え、開発に着手した。用途ごとに自助具を使い分けるのではなく、一つの自助具を携帯するだけで多様な「手を用いる」動作を可能にすることで、自助具の携帯性や利便性を高め、使用者の生活の選択肢を広げられると考えたためである。
How : どのように作成したのか?
以下に材料と⒈カトラリーホルダー、⒉キーボードタイピング補助具、⒊歯ブラシホルダー、⒋髭剃りホルダー、⒌ペンシルホルダー、⒍ ボタン留め具自助具、⒎コップ保持自助具のそれぞれにおいて以下に作成手順を記載する。
STLファイル
材料
1.Bambu Lab A1 mini (Bambu Lab社)
2.SILK+PLA , 1.75 mm , Green (B.BAMBO社)
3.SILK+PLA , 1.75 mm , Blue (B.BAMBO社)
4.PETG Translucent , 1.75 mm (Bambu Lab社)
5.TPE-83A , 1.75 mm , White (e−Sun社)
6.3D CADソフト : Shaper 3D
7.デジタルノギス (ダイソー社)
上記7つの役割を持つ自助具の為の「ハンドホルダー」の作成
⒈カトラリーホルダー、⒉キーボードタイピング補助具、⒊歯ブラシホルダー、⒋髭剃りホルダー、⒌ペンシルホルダー、⒍ ボタン留め具自助具、⒎コップ保持自助具の7つの自助具を1つの「ハンドホルダー」を用いることで「1つで7役」の自助具を開発することにした。この自助具において要となる「ハンドホルダー」のCADソフトを用いた設計では、飲食店で使用されている一般的なサイズのスプーン、フォーク、並びに歯ブラシ、そしてホテルのアメニティーとして使用されている髭剃りの寸法をノギスで採寸し、これら全ての道具において「滑り落ちない、キツすぎない」ちょうどいい寸法を実験繰り返す中で模索しCADにて設計した。
⒈カトラリーホルダー(写真3枚)
添付した3枚の写真のように、スプーンとフォークが収まるように設計した。なおTPUではなく、TPEを用いることにした理由は、TPUより TPEの方が形状記憶に優れていること、またテクスチャがTPUに比べ、比較的しっとりしていることから、各道具をハンドホルダーに装着する際の摩擦抵抗力の軽減、つまり、筋力が低下したものでも軽い力で、道具の入れ替えを可能にすることを目的としている。
⒉キーボードタイピング補助具
キーボードタイピング補助具については、「ハンドホルダー」に取り付ける、キーボードタイピング用の「スティック」を設計した。キーボードを傷つけない用、スティックのキーボードに当たる側の先端にはフィレットをかけることで先端を丸くし、鋭利さのない構造とした。
⒊歯ブラシホルダー(写真4枚)
⒊歯ブラシホルダーにおいては、異なる3社の歯ブラシを用意し、それぞれにおいてデジタルノギスを用いて寸法を測定した。そして異なる3社のは歯ブラシの寸法の中央値を求め、既に設計済みの「ハンドホルダー」に収まるか、滑り落ちないか、また取り外しに過剰な筋力を要しないかを検証することで作成した。
なお、本自助具の全作成工程、各動作における「過剰な筋力を要しないか」という基準は、四肢障害当事者である発明者本人の身体障害者手帳申請時の診断書に記載のある
握力の数値「右 : 7 kg 、左
: 4kg
」
という筋力、把持力に基づき、操作性の確認を行なっている。(写真4枚)
⒋髭剃りホルダー
3.歯ブラシホルダー同様にホテルのアメニティで手に入れた髭剃りの寸法をデジタルノギスで測り、作成済みの「ハンドホルダー」に収まるか、また歯ブラシホルダー同様の確認(操作性、必要となる筋力の確認など)を行なった。
なお、操作性の確認に用いた髭剃りは遠方に住む弟から借りて作成したものであり、実際の写真や動画は手元になく、今回のレシピには登場しない。
⒌ペンシルホルダー (写真4枚)
「ハンドホルダー」におけるペンシルホルダーにあたる寸法の設計には最も注力を注いだ。理由は単純であり、日常生活で必要となる「ペン」には実に様々な種類が存在し、それぞれ寸法が異なるからである。全ての「ペン」に対応したペンシルホルダーを作成することは現実的ではないと判断し、その代わりに「どの年齢層」でも本自助具を用いることで「ペン」の操作を可能にすることを第一の目的と定めることにした。よって本自助具においては、⒈ボールペン、⒉マッキーペン、⒊鉛筆を対象とした。鉛筆を対象とする「ペン」に加えた理由は「子供」でも使用可能な自助具にしたいという想いからである。同時に大人になっても使用可能な自助具を目指した
⒍ ボタン留め具自助具(動画参照)
⒍ ボタン留め具自助具とは、ここではズボン(ジーパンなど)のボタンを留める動作を補助する自助具のことを指すこととする。ズボンのボタンを留めるという動作には手先の巧緻性を必要とする動作であり、麻痺などで筋力が低下した者にとっては困難を伴う動作であると考える。まず、ハンドホルダーに取り付ける「ボタン留め具スティック」をCADソフトで設計した。なお操作性の確認には自宅にあるジーパン(女性Mサイズ)のボタンを使用した。最初は余計なサポート材を必要としない設計にする為、フィレットかけずに作成したが、その場合、ボタンに引っかける動作が非常に困難であることが分かり、再度、設計し直すこととした。
6-1. ボタン留め具自助具の作成における試行錯誤
先述の通り、フィレットをかけない場合には、ボタンにスティックを引っかける動作が困難であることが分かった。次にフィレットをかけたものを再設計し、操作性のテストを行ったが、フィレットをかけすぎることでスティック本体の厚みが薄くなり、ボタンには引っかかるもの、力を入れた途端に折れてしまった。PETGで作成していた為、素材上の特性が影響を考え「衝撃には弱いが、剛性の高い」PLAを用いることにした。本来ならPLAの中でも比較的、脆弱性の高いSILK PLAは用いたくなかったのだが自宅にあるPLAは、SILK PLAしかなかった為、SILK PLAを用いることにした。結果、成功した。
⒎コップ保持自助具 (写真5枚)
⒎コップ保持自助具の設計では、「取手付きのコップ」と「缶飲料」の2種類の飲料の使用シーンを想定して作成した。特に、缶飲料を対象に加えた理由として、私自身が自力で食事が摂れない体調の時に「経腸栄養剤 エンシュア」を処方され飲んでいるからだ。自身と同じような身体障害を抱えるものにとって缶飲料のエンシュアを利用するシーンは多いのではないかと考えた。作成においては、「ハンドホルダー」に取り付ける「コップホルダー」をCADにて設計することから始めた。ここでの工夫点は「コップホルダー」にスリットを設け、取手付きの飲料(すなわちコップに移して飲む場合)と缶飲料のような取手のない飲料の両方に対応可能とした。
Outcome:対象者の何がどのように変化する道具なのか
本自助具は、上肢や手指の機能に制限があり、日常生活動作に不自由を抱える者を対象とする。従来は、食事、歯磨き、髭剃り、筆記、キーボード操作、ボタン留め、飲水など、それぞれの動作に応じた自助具が必要であった。本作品では、これら7つの役割を一つのハンドホルダーに集約し、用途に応じて回転させることで機能を切り替えられる。これにより、複数の自助具を持ち替える負担や携帯時の荷物を減らし、限られた身体機能でもより多くの日常動作を自ら行えるようになる。結果として、生活上の「できない」を「できる」に変え、行動の選択肢と自立性を広げることを目指す。
工夫した点
⒈ TPUとTPEの素材上の特性の違いを考慮し設計したこと。
⒉子供から大人まで使用可能な自助具となるよう、想定される「使用シーン」に幅を持たせたこと。特に子供を対象者とする場合、子供の成長に伴って自助具がサイズアウトすることもあるだろうし、使用する道具がより高度なものに変わることもあるだろう。(例:鉛筆からシャープペンシルへと、子供用スプーンから飲食店で広く一般的に使用されているスプーンへとといった具合に)そのような場合でも、自助具を買い替える必要をなくし、一つの自助具を長く使ってもらえるよう様々な使用シーンを想定した。
3.四肢障害当事者という視点から「操作性」の検討を行なったこと。
本自助具における一番のアピールポイント
1つの自助具に7つの役割を持たせる為の工夫として、まず最初に「ハンドホルダー」を設計し、そのハンドホルダーを「回転させること」によって、1つの自助具で7つの役割を果たせるように工夫した点にあるだろう。「手に装着して使用」する自助具は多数作られているが、それらの自助具の使用方法に「共通点」を見出し、1つの自助具に役割を集約させるというアイデア、そして発想力こそ、私自身の強みであり、本自助具のアピールポイントにもなりうる。
本自助具作成とコンテストへの応募に込めた想い
本自助具の開発は、2025年に発症した指定難病による四肢障害に加え、2026年3月から3度に渡って再発を繰り返した脳損傷による後遺症として高次脳機能障害(記憶力低下、文章化・発語の困難)を抱える中で行った。後遺症の影響が強く7月8月は自宅の中でさえも自力で移動することが困難な状態であり、エントリーの辞退を検討していた。しかし、締切4日前のタイミングで、当初エントリー予定だった高度な作品から、短時間で作成可能な自助具でのエントリーへと切り替えたことで、企業や在籍大学からの資金援助・助成を受けることなく、発明者である私自身の私費で、研究の企画から設計、開発、検証まで全工程を個人で遂行してみせた。
本自助具作成とコンテスト応募に込めた想い 続き(写真2枚)
時に訪問看護による点滴治療を受けながら、介護ベッド上でCAD設計やものづくりを続け、「介護ベッドの上が研究室」という新しい研究・ものづくりのスタイルを提案したい。本作品を通じて、たとえ寝たきりとなり身体の自由を失っても、「誰かの世話になるだけ」ではなく、自らの経験や創意工夫によって「人の役に立つ」ことができるという可能性を示したい。「障害を負ったら、もう誰かの役に立てない」という社会の固定観念を変え、障害当事者だからこそ生み出せる価値があることを伝えるため、本コンテストにエントリーした。
謝辞
本自助具は3Dプリンターを⽤いた個⼈による発明であり、本成果が、同様の課題を抱える当事者や福祉⼯学に携わる開発者の⼀助になることを切に願います。最後に⽇々、家族を始め、私の⽇常⽣活を⽀えてくださっている訪問介護⼠、訪問看護師、訪問診療医の皆様に⼼より感謝申し上げます。
STLファイル
データ容量が大きすぎるためか、データの圧縮を行なってもブループリント機能を用いてSTLファイルを添付することができませんでした。またSTLファイルのリンクを貼り付けることも試しましたが、shaper3Dへのログインが求められる形での共有方法しかできませんでした。その為、GoogleDriveを用いてSTLファイルを共有させていただきます。https://drive.google.com/drive/folders/1MYNbLe3Gt9cvzdrR55U2LDsASd4hfZTK?usp=sharing