課題の発見とプロジェクト始動

2024年6~8月 JICA海外協力隊・理学療法士隊員(以下、『隊員』)が配属先の高齢者施設にて障害を持つ入居者の機能・能力に応じた自助具が不足していることを課題であると認識した。入居者は皆、経済的自立困難であり、身寄りが無いという背景もあり自身で購入することができない。その後、隊員が現地理学療法士(以下、『現地PT』)に共に自助具を作成することを提案しプロジェクトが始動した。

チーム編成~3Dプリンター専門家を仲間に加える~

2024年9月 隊員がJICA海外協力隊技術顧問(以下、技術顧問)に3Dプリンターを使用した自助具作成について相談した。技術顧問から日本の3Dプリンター専門家、さらにマレーシアの3Dプリンターラボ”Invicus Horizon Hill’s Fablab(short form: IHH Fablab)”の3Dプリンター専門家(以下、『専門家』)を紹介された。彼を加えた3名でチームを作りプロジェクトが本格始動することが決まった。

理学療法士による評価

2024年9月 隊員と現地PTが、入居者の機能・能力障害を評価し、『ブレーキレバーの延長』が有効であると判断した。

完成イメージのシェアリング

2024年9月 隊員から専門家に相談して、ニーズと今後の見通しを確認した。 先ずはイメージの目線を揃えるためにCOCRE HUB の「ブレーキ延長レバー」を共有しそこから対話を深めていくこととした。https://cocrehub.com/dl/1e2505/s/045060/r/Bgq3CpVnS7ac4RCRa8eGaA

デザイン設計開始

2024年9~10月 専門家から隊員・現地PT車椅子の既存ブレーキレバーサイズの採寸を依頼。採寸結果を共有した後、専門家がデザイン設計。

対話の積み重ね~最適なデザインを求めて~

2024年11月 専門家から隊員・現地PTへ既存ブレーキレバーの詳細を把握するためにレバーの実物を郵送依頼。実物郵送後、専門家がデザイン設計を継続。

再デザイン設計

2024年11月 試作品Ver.1デザインが完成。専門家から隊員・現地PTへ写真を共有。隊員・現地PTが写真を確認し、専門家へレバーの長さを15㎝からさらに延長することを提案。その後専門家が長さ21㎝で再デザイン設計をした。

試作品Ver.1完成

2024年12月 長さを延長した試作品Ver.1が完成。専門家から施設へ郵送。

試作品Ver.1の評価と課題抽出

2025年1~2月 隊員・現地PTが入居者に対して試作品Ver.1の評価を実施。車椅子のブレーキをかけた時にレバーが遠くなってしまうため、体を過度に前傾姿勢にしなければならなくなる課題があった。隊員・現地PTから専門家へ持ち手に角度を付けたデザインができるか提案。専門家が再デザインを設計。

Ver.2完成

2025年3~4月 延長ブレーキレバーVer.2が完成。専門家が施設へ郵送。隊員・現地PTが 入居者に対してデバイスの評価を実施。持ち手が太く入居者が握りづらいという課題があった。また、他の入居者も延長ブレーキレバーが負担軽減になるであろうと推測した。

課題抽出と汎用化の検討

隊員・現地PTの評価によりレバーを操作するための持ち手(把持)部分の周径が太く入居者が操作しづらいことが分かった。専門家へ「①レバー持ち手2ヶ所の周径をさらに小さくすること」、「②他の車椅子にも適合するように接続部分の汎用化」を盛り込んだデザインを提案した。

入居者への評価

”ポジティブな変化”
ブレーキレバーの柄が長くなったことにより体幹部を前後させることなくブレーキ操作を行える。全体的に以前よりも遥かに使用感は向上した。

Ver. 3へ再デザイン検討

2025年8月 専門家からの報告。軸とレバーを分けて、2個のパーツにすることで様々なタイプのブレーキに装着できるデザインするアイデアが隊員と現地PTへ提出された。

ネジを使わずに軸を固定する工夫

さらに専門家よりネジ(スクリュー)を使用せずに結束バンドを使用するアイデアが提出された。以前よりも簡易的かつ頑丈に車椅子に固定できるようになった。

Ver. 3のSTLファイル公開

2025年8月 専門家より提供された『延長ブレーキレバー Ver. 3』のSTLファイルを一般公開する。

STLファイル

insert_body
insert_cap_A
insert_cap_B
main

材料Tool

結束バンドcable tie/zip tie 適量

Ver. 3の動画(Youtube)の公開

”完成動画の公開”
延長ブレーキレバーVer. 3が最終的な完成ではない。「さらに入居者に対してパーソナライズできる」と、3者は認識している。しかしながら国や民族を越えてアイデアを出し合い、試行錯誤を経て協同創作したした成果を公開することとした。既存ブレーキレバーよりも格段に入居者が自立してブレーキ操作はできるようになった。今後は他の入居者の自立ニーズに対しても3Dプリンターを応用していくこととが私たち海外連携チームの目指す所である。
また、この段階でSTLファイルを含めた情報を公開するとチームで結論を出した。日本や他の国の方が当データを使い人々の困りごとを解決する手段になれば幸甚である。