Title

ペットボトルを尿瓶に利用できるコネクタ(小児サイズ)

※stlファイルはこちら
ペットボトル尿瓶コネクタ

【制作環境】

PC:Windows11
CAD:Tinkercad
3D Printer:Bambu A1mini
スライサー:Bambu Studio
フィラメント:ELEGOO RAPID PETG(半透明クリア)、SainSmart TPU(青、簡易キャップ用)

※3Dプリンタは昨秋に購入。CADはビギナーレベルで、今回Tinkerで本格的に取り組んだことでだいぶ経験値が上がりました。

For whom

対象者は、神経難病のために四肢麻痺で全介助の息子(12歳)です。乳児のときに神経難病を発症し、首座りもなく手を動かせないので、排泄はすべて介助が必要となります。
排尿コントロールはできるようになったのですが、子供が利用できるサイズの尿瓶は市販されていないため、幼児の頃からペットボトルを代用してきました。ペットボトルはどこでも入手でき、汚れたら気軽に廃棄できる利便性があります。
しかしペットボトルの飲み口の形状は、尿瓶としては正直使いづらいと感じてきました。

Why

息子の成長や行動半径の広がりに伴い、ペットボトルをそのまま使うのが一層難しくなってきました。ペットボトルの口径よりゆとりがあるサイズで、車椅子に座ったままでも使いやすい(介助しやすい)形状が欲しい、排尿を待つ間に介助者が手を放しても大丈夫な形が欲しい(仰向けの場合のみ)、と思うようになり、ペットボトルの利便性はそのままにコネクタを開発することにしました。

※一般的な尿瓶は成人向けサイズしか市販されていません。成人男性の外出時、その大きな尿瓶は持参しづらく、我慢してオムツにするしかないとヘルパーさんや訪問看護師さんに聞きました。こういう尿瓶コネクタがあれば問題解決になると思います。

How

  • ペットボトル接続という前提でイメージはすぐ湧きました。まずペットボトル接合部を探し、COCRE HUBで見つけた「ペットボトルダンベラー」を参考にしました。 
  • 上部の管はTinkercadで見つけたパーツを応用。息子に何度も協力してもらい、ベッド(仰向け)と車椅子に座った場合とで適切な角度や長さを割り出しました。試作は30個近くで、特に筒の内側の形状や角度には工夫を重ねました。
  • フィラメントは最初は白色でしたが、「少し透けるくらいが使いやすい」と感じ半透明PETGに変更。取っ手や簡易キャップも作り、利用シーンに合わせた2パターンにしました。(簡易キャップはストレート型のみ)

利用シーンを念頭に置く

  • ストレートはベッドでの仰向け、くの字型は座位での使用を前提に、ストレート型はよりフィットしやすい細身の仕上がりに。
  • サイズは2歳~12歳の男児を想定。トイトレにおすすめ。
  • 使用後はコネクタを水で洗い流し、取っ手を引っ掛けて乾燥可能。洗浄し繰り返し使える。 
  • 急ぐ時も迷わない。くの字型は上下が判別しづらい形でも、取っ手が目印になるだけでなく、ペットボトルと接続する際に指が引っかかり回しやすい(トイレがギリギリでも手早くできるように)。 
  • 簡易キャップをつけることで、ペットボトルを誤って横倒しにしても大惨事は防げる。※完全に密閉するものではないので要注意!

印刷時のポイント

  • 半透明PETGがベター。(少し透けるので位置が確認しやすい、完全クリアより介助者は受け入れやすい)
  • 充填率10%で強度は相応にあり、床に数回落としても破損せず。
  • 簡易キャップはより柔軟なTPUのほうがおさまりが良い(PETGでも可)
  • サポートは付けて印刷するのがおすすめ。
  • (※当初は「縁」をつけておらず、バリが出ないように、性器が触れる入口側を底面に指定して印刷していたが、最終版はペットボトル接続側が3Dプリンタのプレート面に接地して印刷する)

ペットボトル接合部の工夫

  1.  最初はペットボトルのフタ上面を外して管を付けただけにしたところ、コネクタを何度も回して接続する必要があり(ボトルがどんどん管の奥へ入ってしまう)、着脱が面倒に感じた。
  2. 次にドーナツ型の薄い蓋状パーツを間にかませたら、そこに尿や洗浄後の水も溜まりやすく拭き取りづらいと判明。
  3. すり鉢状パーツ(底面は穴あり)に変更してペットボトルの口サイズとピッタリに仕上げるも、ペットボトル接続部とのわずかな隙間で尿漏れが発生。完全に防げず悩む。
  4. 漏斗を参考に、ペットボトルの口の中に漏斗の先端パーツの底が2mm程入り込むように設計変更。勢いのある尿量でも流れる直径を確保し、最終テスト合格!

尿逆流・尿漏れとの戦い

  • ペットボトルのフタに穴を開けただけでは隙間から尿が漏れるため、漏斗状の管の先端をフタに突き通す形を採用(ボトルに落ちた液体を逆さにすると漏斗なので漏れる)
  • 曲がりの試作品を試す中、仰向けで尿の勢いが少ない時や排尿終わりかけの時に、コネクタ内の尿が性器側へ逆流する現象が何度か発生。仰向けなら完全ストレートのほうが尿が落ちやすい(液体が流れる少しの角度があれば大丈夫)と判明。
  • 使用後の尿入りボトルを誤って横倒しにするケースを想定し、簡易なキャップも柔らかいTPUで作成。完全に漏れないわけではなく、前述の通りに少量の漏れは発生する前提での使用となる。

Outcome

息子本人はより快適に、尿漏れも発生せずに排尿をすることができるようになりました。毎日何回も排尿するので、この状況はQOLに直結し、本人も介助側も満足度が高いです。特に車椅子に座っているときの排尿は、息子も介助者側も格段にやりやすくなりました。訪問看護師の皆さんにも好評です。

今年、息子は初めて飛行機の旅を経験し、大阪万博へも行きました。行動範囲がどんどん広がる中、また思春期を迎える息子にとっても、排尿介助がスムースなのは非常に意義があります。暮らしをよくするための工夫をこれからも続けていきたいです。

Size

仕上りサイズは次の通り。(判別のため着色しています)

【ストレート型:紺色】
・底面から最上部までの高さは78.7mm(フタ部分を含まない)
・上部の挿入口(内径)は、28mm×23mm
・横幅は最大46.0mm(取っ手部分を含む)
・簡易キャップの高さは35.0mm
※ストレート型のみ簡易キャップあり

【くの字型:黄色】
・底面から最上部までの高さは87.8mm(フタは作成無し)
・横幅は最大47.76mm(取っ手部分を含む)
・管の外径32.4mm
・曲がり角度は20度