開発動機
私は釣りが好きで、初心者向けのサビキ釣りをしています。
その中で困ることが2つあります。
(1)アミエビの臭い
アミエビはエビ特有の匂いがするので、カゴにエビを入れると手が臭くなります。チューブに入った手が汚れにくい物、いい香りのついたものが最近売られていますが、少し値段が高いです。だから、手に匂いがつきにくい物が欲しいと考えました。
(2)根がかり
根がかりとは針やカゴなどの仕掛けが海中の岩や根株などの障害物に引っかかって外れなくなることです。根がかりした場合、竿を左右に振るなどして障害物から外します。それでも外れない場合は糸を切って仕掛けを捨てます。私はこのときに海中に捨ててしまうカゴや針のことが気になっていました。釣り糸には海中で溶ける素材のものがあります。サビキ用のカゴも溶けて無くなってしまえば生態系に影響も与えず、罪悪感を持たなくてすむと考えました。
使う素材
FORZEAS™ /フォゼアス™フィラメント
を今回は使います。
生分解性かつ植物原料ベースということで、分解前に魚や鳥が食べてしまっても通常のプラよりも安全だと思ったからです。
調べてみると、生分解性があっても海中で分解できない素材もあるようですが、フォゼアスは海洋生分解性の試験で、1年間で約90%分解されたと発表されているため、今回作りたいサビキカゴの素材に適していると分かりました。
※本当に分解されるのか気になったので、6月下旬にフィラメントの切れ端をもらい、2本土に埋め、2本池の水の中に入れました。10月下旬の時点であまり変化はありません。
カゴの計測
実際に使っているサビキカゴの大きさを測りました。
モデルにしたサビキカゴは
・大きさ 10号(直径・高さ:28mm・50mm)
・重さ 34g
・材質 本体:ポリエチレン・鉛、糸:ナイロン、
スナップ:真鍮
カゴのアミになっている部分の隙間は縦2mm・横5mmでした。
モデリング
実際のサビキカゴを元にモデリングしました。
その際に、カゴを海に沈めるための鉛も環境破壊につながるため、重りの部分を何にするか検討することにしました。結果、自然にあり、海に沈んだままでも問題にならないもの、ということで石を使うことにします。
石は底に取り付けるのではなく、カゴを20mm高くし、カゴの底に詰める方法を試してみます。
また、アミエビをカゴに入れるときにつまめる突起を取り付けてみました。
使ったソフトは
Tinkercad
です。
プロトタイプ2号
自宅に3Dプリンタがないため、施設で借りてプリントします。それまでの期間、プロトタイプの2作目を作りました。1作目は普通のさびきカゴの上部に持ち手がついていますが、これは下部に持ち手をつけ、カゴの上部を斜めにすることでスコップのような形状にしました。そうすることで、アミエビをすくってカゴに入れることができます。
試作プリント
fablab宮崎βさんでプリンタをお借りしてプリントしました。
そのときにプロトタイプ1は突起の部分がうまくプリントできないかもしれないとアドバイスをいただいたので、突起を斜めにすることで失敗しにくい形状にしました。
フォゼアスでプリント
プロトタイプ2の方をフォゼアスフィラメントを使いプリントしました。プリンタは
ANYCUBIC MEGA ZERO2.0
です。
層 0.2
密度 25
印刷温度 190度
ビルドプレート温度 0度
印刷速度 20
サポートなし
画像の通り、カゴの隙間部分が潰れてしまっています。カッターを使って手作業で整えるのも難しい状態だったため、もう一度設定を変えてプリントをすることになりました。ただし、時間の都合で次回プリントができるのは8月になりそうです。
PLAでプリント
フォゼアスでの造形時間が2時間くらいかかったため、gablab宮﨑βさんが空いているプリンタでPLAを使ってプロトタイプ1と2のプリントをさせて下さりました。
こちらはカゴの隙間もきちんとできました。
実物を持ってみてスコップ型のカゴの問題点を発見。つまみの部分を滑らかな曲線にしたため、掴もうとすると滑って落ちてしまいます。これはPLAがツルツルしているからなのでフォゼアスを使えば問題なさそうですが、もう少しつまみやすい形状に変更したいと思います。
釣りに行って試しました
見た目は悪いですが、このカゴの形で釣りをしても耐えられるのか試すために釣りに行きました。
まず、港にある石をカゴに詰めて重りの代わりにしました。
次に、釣り針の先にカゴを結びつけ、餌をカゴの中に入れました。
使った感想
試作品を使ってみた動画です。
何度か試してみて、フグが何匹か釣れました。
(時間帯が悪くてアジは餌に見向きもしませんでした)
よかった点
・海中に沈むときに、餌がきちんと水中に広がる。
・海底にカゴをぶつけたり、釣り上げたときにコンクリートの上に落としても壊れなく頑丈。
悪かった点
・石を詰めても思ったより重さが出ず、カゴが海底に沈んでいかない。
・重さを出すために石をたくさん詰めると餌を入れるスペースが少なくなり、釣りをするときに何度もエサを入れ直さないといけない。
モデリング2
使ってみて不便だと思った点を改良することにしました。
特に重りの重さが足りない、重くするために石をたくさん入れると餌が入らなくなる点が1番の問題のため、カゴをひとまわり大きくすることで解決することにしました。
また、カゴの隙間が多少潰れても性能には問題ないけれど、きちんとモデリングした通りにプリントできるように挑戦したいと考え、カゴの隙間の形を変えることにしました。
穴を等間隔にしてみると、2枚目の写真のようにフォゼアスの特性で穴が潰れてしまったため、穴を交互に開けることにしました。
プリント
プリントに時間がかかるので、fablabβ宮崎さんで使用したものと同じプリンタを購入しました。
層 0.1
密度 40
印刷温度 180度
ビルドプレート温度 0度
印刷速度 20
サポートなし
前よりは穴が潰れずにプリントできるようになったけれど、モデリング通りにプリントできるのではないかと思い、印刷温度と印刷速度を変更しました。
2枚目の写真のように190度だと穴が広がってしまうため3枚目の写真の様に170度にしてみると、若干広がりが抑えられます。
層が0.2だと4枚目の写真のように一番綺麗にプリントできました。速度は10です。
ただし、円筒に回転しながらプリントする切り替えの部分の穴がうまく塞がりません。
モデリング3
縦にカゴをプリントしていくと穴が潰れるため、円筒形にこだわらずにモデリングを繰り返しました。
デザイン1
円筒の一部を切り取り、平面に穴を開けた部品を取り付ける形状にしてみた。
実際に印刷すると、円筒の切り口の部分と平面の部品がどちらも縮んでしまうため、平面の部品を大きめに作り直す必要があった。
それでも、円筒の切り口の部分がプリントの温度や厚さなどを何度変更してもガタガタになってしまったので、2枚目の写真のように少し隙間ができてしまっている。
デザイン2
平面の部品は反り返らずにプリントできたため、平面の部品だけで作り、組み合わせればいいのではないかと考えてデザインしてみた。
実際にプリントすると、組み合わせるために作った両端の細い部分が反り返ってしまうため、2枚目の図のように0.2ミリの層を一緒にプリントすることで反り返らないように工夫した。(プリント後は切り取る)
組み合わせたのが3枚目の画像です。接着剤を使わなくてもピッタリと組み合わさりました。このまま使ってみても壊れないかどうかを釣りに行って調べようと思います。
使用感
デザイン1、デザイン2のどちらも実際に使ってみて、海中に沈めたときの餌の広がりは問題ありませんでした。ただし、デザイン2の方は何度か使っているうちにつなぎ目の部分が若干広がったため、長期的な使用には向かないかもしれません。
完成
印刷速度を下げることで印刷の切り返し部分でも穴の広がりを抑えることができ、完成した。
これ以上印刷速度を下げると、そこの部分が反り返るため、この設定がベストである。
層 0.2
密度 25
印刷温度 180度
ビルドプレート温度 0度
印刷速度 10
サポートなし
stlデータのURL
https://drive.google.com/file/d/1RCH3Qf8htoro8M_i7aE_vHAhLbQVvJcM/view?usp=sharing
つまみの部分
つまみの部分を持って、手を汚さずにアミエビを中に入れることができました。
餌の見た目が気持ち悪い方もいらっしゃると思うので、動画を直接貼り付けませんでした。
興味のある方はURLからご覧ください。
https://youtu.be/SqztChyH_Bk
感想
3Dプリンタの使い方も慣れていない中、新素材を使って自分の思った通りにプリントすることはとても難しかったです。今回完成品ができるまで、20個近くのサビキカゴを作りました。見た目は悪いですが、使う分には全然問題ないため、釣りに行くときはこれらのカゴを使おうと思います。
今回のプロジェクトを通して、失敗したものも活用できるように設計することでSDGsの目標12「つくる責任つかう責任」にも繋がってくると実感しました。
また、この新素材は素材の特性に合わせた設計にする必要があると思いました。平らな形状にする、上に広がる形よりも狭まっていく形の方が綺麗に造形できるため、今後をそれを意識した設計をしたいです。