For whom:対象者

視覚障害などにより、財布の中で硬貨の種類を確かめたり、必要なものを取り出したりすることに手間を感じる人。特に、コインレールの便利さは使いたいけれど、そのために、かわいいものや自分らしいと思えるデザインの財布を諦めたくない人を想定しています。

Why:なぜ作ろうと思ったのか

コインレールは、硬貨を分けて収納し、必要なものを取り出しやすくする便利な道具です。一方、視覚障害のある知人から、「コインレール付きの財布は便利だけれど、かわいいものや、自分らしいと思えるデザインを選びにくい」という話を聞きました。 便利さのために、持ちたい財布を諦めなくてよい方法はないか。そこで、「使いやすい財布の中から選ぶ」のではなく、「好きな財布を使いやすくする」ことを考えました。市販の好きな財布にコインレールだけを後付けできれば、使いやすさと、自分らしく選ぶ楽しさを両立できます。そう考え、製作を始めました。

How:どのように作成したか

3次元CADで設計し、3Dプリンターで試作しました。以下に、取り付け場所の検討、回転式の失敗、背中合わせ構造への変更、レール寸法と触覚的な工夫をまとめます。

取り付け場所の検討

多くの小銭入れに共通する中央の仕切りを、取り付け場所に選びました。レールを小銭入れの中へ収めることで、硬貨がレールから外れても小銭入れで受け止められます。

最初の試作:回転式

最初は、硬貨を並べた扇形のプレートを回転させる構造を試しました。回転機構自体は機能しましたが、小銭入れの中で場所を取り、硬貨をはめる際にプレートが動いて力を加えにくいことが分かりました。また、使用時には硬貨が小銭入れの外へ出るため、「硬貨が外れても小銭入れで受け止める」という狙いを生かせません。そこで回転式を見送り、薄く安定する背中合わせ構造へ変更しました。

完成形:背中合わせ構造

4本のレールを2本ずつに分け、中央の仕切りをクリップのように挟んで、両側へ背中合わせに配置しました。これにより横幅を抑えながら、4本のレールを小銭入れの中に収めました。

金種を固定しない共通レール

500円玉用だけを専用寸法とし、残り3本は500円玉以外の硬貨を収納できる共通寸法にしました。各レールに1種類の硬貨を分けて入れることも、1本のレールに複数の金種を混ぜて入れることもできます。使う人が、自分にとって分かりやすい組み合わせや配置を自由に決められます。

触って分かる工夫

500円玉用レールの幅によって生じる端部の段差を、触覚的な目印にしました。クリップ内側には滑り止めの凹凸を設け、硬貨を保持するストッパーは、指に触れても痛くないよう角と先端を丸めました。

3Dプリンターでの試行錯誤

3次元CADで設計し、3Dプリンターで造形しました。金属製品と同じ形では樹脂で強度を確保しにくいため、保持部、ストッパー、樹脂のしなり、積層方向を調整しました。何十回も造形をやり直し、保持力、取り出しやすさ、薄さの両立を図りました。

造形用データ

STLファイル

Outcome:対象者の何がどう変わるか

完成品は小銭入れの仕切りに収まり、財布の厚みをほとんど増やさずに使えました。視覚障害のある私自身が券売機などで使用したところ、硬貨を一枚ずつ目で確認せず、必要な金種を取り出せました。また、製作のきっかけとなった視覚障害のある知人にも完成品を見てもらい、コインレールの便利さを保ちながら、好きな財布を選べる点を喜んでもらえました。今後はほかの人にも試してもらい、使いやすさと取り付けられる財布の範囲を確かめます。