For Whom:対象者

脳血管疾患などで片手に麻痺がある方を想定している。
片麻痺があって両手を使えないが,目玉焼きやスクランブルエッグを作ったり,卵かけご飯を食べるために自分で卵を割りたいというニーズがある方を想定している。

Why:なぜ作ろうと思ったか

脳卒中による片麻痺症状,特に手指の不自由さが残存する方はとても多い。
料理の工程でも,野菜を切ったり炒めたりする工程は,伝統的に釘付きまな板や,トングなどを使って代償する方法が示されている。
一見難しそうなリンゴの皮剥きも,片手でくるくると剥くことができる便利な道具もある。
一方で,卵を片手で割ることについては,料理に慣れた方であれば,片手でも割れるため,臨床でも「片手で割る練習をする」という方法が選択されることが多かった。
共同メンバーのご家族が片麻痺になられた際に「卵を割るのが大変だった」という一言から,この不自由さを少しでも解消したいと考えて作成することにした。

How:どのように作成したか


卵を割る際の手の動きの分析

まずは卵を割るときの手の動きを分析した。
割る工程の最後の段階では,ほぼ左右対称の動きとなることから,今回は左での役割を中心に分析し,まずは右手だけで割れることを目標とした。
特に重要な左手の役割としては,ヒビが入った殻に,右手の親指と一緒に左手の親指も入れて,左右に殻を広げる点だった。
卵自体は片手でも支えられるが,殻を広げる工程の難易度が高いと考えられた。

デザイン

Tinker CADを用いて立体図の組み合わせで作成をした。
殻を広げる際のもう一方の指の形に近い突起を器につけるデザインとし,
割った後に,そのまま卵が器に落ちるようにした。

使用感

使用は作成者が試した。
動画の通り,殻が器に入ることなく,片手で割ることができた。
作成者の子どもにも試してもらい,10歳児と8歳児も片手で卵を割ることができた。
突起への引っ掛け方などコツを掴む必要があるが,児童期の年代でも手本を見て真似ることができ,
使用の難易度も高すぎないということが示唆された。
https://youtu.be/bg7Z4VxWHRc

outcome:対象者の何がどのように変化する道具なのか

この道具はシンプルに,片手でも卵を失敗なく割ることができる道具である。
卵料理は,料理の中でも比較的基本的な料理であり,その後の調理の難易度も低い。
目玉焼きやスクランブルエッグなど朝食としても好まれている。
これらの料理に片麻痺であっても参加することができ,自分でできることが増え,自信にも繋がっていくと考えている。

展望とさいごに

今回は,実際の片麻痺の方にお試しいただくことができていない。
今後は当事者の方にも使用していただき,改善点をヒアリングし,より使いやすいものにしていきたいと考えている。
凝ったデザインではないが,アイディアと分析によって,便利な道具を生み出す可能性を示すことができたのではないかと思う。
今後も暮らしの中で,良いアイディアを生めるようにしていきたい。