アイデア出し

私たち高校生3人は身近にあるお弁当にまつわる不便なことを解決すべく、まず最初に毎日お弁当を作ってくれる母にインタビューをしたり、自分たちが不便に思っていることを書き出したりしてみました。じっくり考えてみると、普段はあまり気にしていませんでしたが問題点がたくさんあるということに気付きました。




不便に感じていること

母へのインタビューや自分たちの意見から
・保冷材の結露で物が濡れる
・保冷材の冷気でご飯が固くなる
・煮物やおひたしなどの汁が他のおかずに染みる
・お箸を入れ忘れる
・保冷剤を入れても均等に冷えない
という課題を発見しました。

解決策

私たちは、話し合いで出た意見の中から「お箸を忘れやすい」という意見に一番共感をよせました。
なぜお箸を忘れやすいのか考えてみると、「お弁当にだけ意識がいってしまい、お箸のことは頭からぬけてしまう」といった理由が出てきました。 その点を考慮して、アイデアを出した結果、お箸を忘れないための解決策として次のようなお弁当箱を作ることにしました。

<解決策>
・お箸がないと蓋が閉まらない設計にする
・内蓋を作り、その上にお箸を乗せる
この二つの解決策によって、「お弁当だけでなく、お箸のことにも意識がいく」と思いました。

プロセス

お箸の上部に突起をつけ、その突起にお弁当箱本体に付いている留め具を引っかけることによりお弁当の蓋が完全に閉まる設計を考えました。
お箸を1本ずつ上下逆向きに入れ、留め具もお弁当箱の両側につけることで、蓋が開かず両側からロック出来ます。ロックをかけるための留め具の部分は水筒の蓋を参考にしました。(1枚目の写真)
2枚目の写真のように、プロトタイプしました。
折り紙と紙粘土を実際の大きさに切りだして使いました。
縦は21mm、横は87mmです。
また、3枚目の写真ではお弁当の具材を折り紙で作って入れてみました。

今回は「本体と蓋」「内蓋」「お箸とその突起」「留め具」の4つに分けて試作方法を説明します。


内蓋

<内蓋>
お弁当箱本体と蓋の間に挟む内蓋です。
内蓋を取りやすくするために、また、お箸を1本ずつ上下逆向きに入れるので食べ終わった後に他方のお箸の上部が汚れないように、真ん中に5㎜の高さの突起をつけました。
また、両端の突起は6㎜です。

お箸とその突起

<お箸>
先端を3㎜、持ち手の方を5㎜にしました。
また、市販のお弁当用のお箸は短いものが多く使いにくいという意見から、割り箸を参考にお箸の長さは200mmにしました。(2枚目の写真)

<お箸の突起>
「お箸の突起は大きすぎると邪魔になるのではないか」という案が出たので、厚さを3㎜・5㎜・7㎜・9㎜、形を長方形・円・半円にしたプロトタイプを作成し、一番使いやすく、かつ邪魔にならない、厚さ7㎜の半円の突起にしました。3枚目の写真では、長方形のプロトタイプだけですが、右から厚さが3㎜、5㎜、7㎜、9㎜となっています。

留め具

<留め具>
写真の左側の留め具は、お箸の突起に引っ掛けるための留め具です。
その左側の留め具の差し込み部分を右側の留め具の穴に通します。
この右側の留め具はお弁当箱本体に接着剤で付けます。

製作

FabLab鎌倉にてプロセスで紹介した部品の製作をしました。

本体と蓋

<本体>
makercaseとInkscapeを用いてお弁当箱本体を作り(2枚目の写真)、3Dプリンタで出力しました。
本体にお箸を通すための穴を開ける部分は、何度も採寸を繰り返し、突起は引っかかるが、お箸はスムーズに通せるような寸法にしました。

<蓋>
makercaseとInkscapeを用いて蓋を設計し(3枚目の写真)、レーザーカッターで出力しました。本体と縦幅と横幅は同じ大きさにしました。

内蓋

<内蓋>
Fusion360で設計し、3D プリンターで出力しました。 横の部分にフィレットをかけることによって、子供が触っても角が丸いので、怪我をしにくい設計にしました。

お箸とその突起

<お箸>
Inkscape(1枚目の写真)を用いて、レーザーカッター(2枚目の写真)で出力しました。材料がアクリルのためとても軽いです。

<お箸の突起>
Fusion360(3枚目の写真)3Dプリンター(4枚目の写真)を使って突起を作りました。お箸の持ち手部分が、突起の穴にきちんとはまらなくてはならないので、ミリ単位で計測しました。

留め具

<留め具>
1枚目の写真の留め具は、水筒の留め具の部分を参考にしました。Fusion360(2枚目の写真)と3Dプリンターを用いて、出力しました。
3枚目の写真の留め具は、左側の留め具の差し込み部分が通るような穴をInkscapeを用いて開けました。そして、レーザーカッター(4枚目の写真)で出力しました。

完成

全ての部品を組み立て、お箸の上部にある突起にお弁当箱本体についている留め具を引っ掛けると完成です。
これで、お箸の入れ忘れは防げると思いました。

失敗

作成したものから、いくつかの課題点を見つけました。

①お弁当箱本体に穴を開けると、きちんと蓋が閉まらない。

②採寸を間違い、内蓋がお弁当箱本体の底に落ちてしまうため、お弁当箱の具材をつぶしてしまう。(1枚目の写真)

③横にお弁当を傾けた際に、お箸が落ちてしまう。(2枚目の写真)

失敗の解決策

上記の失敗の解決策を考えました。

①の解決策
お弁当箱本体に穴を開けるのではなく、お弁当箱の蓋にお箸を通すための穴を開ける。

②の解決策
内蓋が引っかかるようにお弁当箱本体の大きさを小さくする。

③の解決策
お箸の突起のための留め具の一方をふさぐ。


再製作

FabLab鎌倉で作ったお弁当箱を持ち帰り、失敗を解決すべく、GooDay Fab大名で再製作を行いました。
写真提供:GooDay Fab Daimyoのfacebookより

①の解決策

Inkscapeによってお弁当箱の蓋の展開図に穴を開けました。

②の解決策

お弁当箱本体の横幅を以前より8㎜小さく設計しました。Inkscapeでデータを作成し、レーザーカッターで出力しました。

③の解決策

Fusion360と3Dプリンターを用いて、留め具の一方をふさぎました。

完成2

3つの解決策に基づいて製作をしました。
蓋に穴を開けお箸を通し、お弁当箱本体についている留め具を引っ掛けることで、蓋と本体がしっかりと接続され、蓋が開かないようになりました。
本体を小さくしたため、内蓋が本体の底に落ちてくることもなくなりました。
留め具の一方を塞いだので、お弁当箱を傾けた時にお箸が落ちてこなくなりました。

お弁当箱本体

材料:アクリル3㎜ 乳白色
サイズ(外側):縦78㎜、横207㎜、高さ50㎜

<工夫したところ>
・内蓋が落ちず、またカチッと引っかかる絶妙な大きさにした

お弁当箱 蓋

材料:アクリル3㎜ 白
サイズ(外側):縦86㎜、横207㎜、高さ12㎜

<工夫したところ>
・お箸が通る穴の大きさは、お箸がスムーズに通る大きさにした

内蓋

材料:ABSプラスチック 白
サイズ:縦79㎜、横200㎜、高さ6㎜

<工夫したところ>
・横の部分にフィレットをかけているため、側面を触っても痛くない
・持ちやすいようにかつ使用後お箸が汚くならにために、真ん中に高さ5㎜の持ち手を付けた

お箸

材料:アクリル2㎜ 透明 (2㎜のアクリルを2つ重ねて厚さ4㎜にしました)
サイズ:幅3㎜~5㎜(上から下に徐々に細くなっています)、長さ200㎜、厚さ4㎜

<工夫したところ>
・長さが200㎜なので、大人の方でも持ちやすい長さのお箸

お箸の突起

材料:ABSプラスチック 黄
サイズ:横15㎜ 、厚さ7㎜

突起がお箸からは取れないように、接着剤で付けました。

<工夫したところ>
・半月型になっているので、ぱっと見たときかわいいなと思える
・小さい作りになっているので、邪魔にならず使いやすい

留め具(お箸を留める)

材料:ABSプラスチック 赤
サイズ:半円部分:半径12㎜、厚さ5㎜
  差し込み部分:半径2㎜、長さ各8㎜
⇒合計横幅40㎜

<工夫したところ>
・留め具が赤なので、見た目もかわいい
・赤ということはかわいいだけじゃなくて、目立つのでお箸の突起に引っ掛けるのを忘れることを防ぐ

留め具

材料:アクリル5㎜ 透明
サイズ:縦6㎜、横6㎜、厚さ5㎜

<工夫したところ>
・透明の立方体に近い形になっているので、きらきらと輝いて見た目がきれい
・穴の直径を赤の留め具の差し込み部分の直径よりも大きくしたので、引っ掛けるときにスムーズに引っ掛けることができる

実践

完成したお弁当箱にお弁当を詰めて、実際に学校で使用してみました。

実践結果

お弁当箱を使った母から、「このお弁当箱だったらお箸を忘れないよ」と言ってもらいました。私たちが考えた課題をこのお弁当箱が解決してくれました。

思っていた以上に蓋がしっかり閉まり、お箸があることで蓋が閉まるというこのお弁当箱の趣旨がきちんと成立していました。1枚目の写真のように蓋だけを持っても、蓋が開くことはありませんでした。

学校に持っていく際に揺れていても、留め具の部分が外れて、お箸が出てしまうこともありませんでした。それは、失敗の解決策として挙がっていたお箸の留め具の一方を塞ぐことによります。(2枚目の写真)

クラスメートからのフィードバック

クラスの友達にお弁当箱を見せてみました。すると

・これだったらお箸を入れ忘れそうになっても「お箸がない」ということに気が付くから、絶対に忘れない‼
・お箸が互い違いになっていて、2本のお箸の間に仕切りがあるから、持ち手の部分が汚れなくてすむから良い
・突起と留め具のフィット感がちょうどいい
・通常のお弁当箱に付属で付いてるお箸は短いので、お箸が長くなったため使いやすい
・ゴムバンドがいらなくてすむ
・白のお弁当箱に赤や黄色が所々にあるのがかわいい

という意見をもらいました。

感想

今回、母にお弁当についてインタビューしてみると、不便なところが多くみられるということを知りました。 そしてお箸の入れ忘れは、食べる時にとても困るけれど、今まで「意識する」以外の解決策がなかった問題だと思います。クラスの中でも、お箸を忘れて売店に買いに行く人がよく見られます。このお弁当箱が普及すれば、そんな悩みもあっという間に解決できると思います。
また、Fusion360やInkscape、makercaseを使用していく過程で1㎜の違いが失敗、そして成功につながっていくことを知りました。ものづくりは完成品を作ること以上に、それまでのクリエイティブな発想力や失敗から学ぶ力が大切だと分かりました。

追記

ファブラボ鎌倉の皆様、GooDay Fab大名の皆様、お弁当箱づくりの制作、相談をさせていただきありがとうございました。
製作過程での、留め具や突起の計算がとても複雑で、またそれに伴い、InkscapeやFusion360でのデータの製作がとても難しかったのですが、無事に作り終えることができました。苦戦している私たちを温かく励ましてくださり、とても心強かったです。
皆様のお力添えのおかげで、自分たちが思い描いていた作品を作ることができました。
本当にありがとうございました。

本体と蓋

<本体>
本体の両サイドの上部にお箸を通すための穴を開けました。
この穴にお箸を通し、お箸の上部の突起に留め具を引っ掛けることによって、「お箸を入れないと蓋が閉まらない」設計にしました。

<蓋>
一般的なお弁当箱と同じような設計にしました。