お父さんのために

私の父は、若い頃から昆虫標本を集めたり、大きなマツボックリを探しに行ったりするほど、自然が大好きです。最近は歳をとり、アクティブに行動することは少なくなってしまいましたが、庭にビオトーブを作ったり、いろいろな植物を植えて育てたりしています。

そんな父親の姿が私に与えた影響は大きく、私の自然・生物好きは父親譲りで間違いありません。そのことが今大学で学んでいることにつながっています。

父親への感謝の思いと、大学でデジタルファブリケーションの技術をしっかり学んでいるよという報告を含め、父親のために「自然物の模型」を3Dプリンタで作ることにしました。

なににする?

まず、こちらの複雑な形をした木に挑戦してみることにしました。

CTスキャナを使ってデータをとる

実物のものを3Dモデルにするには、SenseやNextEngineに代表される「3Dスキャナ」を用います。

今回は3Dスキャナの中でも、簡単・早い・高精細なCTスキャナを用いて、3Dデータを取得することにしました。
使用したCTスキャナは、X線産業コンピュータ断層撮影装置NAOMi-CTです。

3Dモデルへ変換

dicomデータという多数の断層画像を、3Dスキャナで取得します。

このdaicomデータを3Dモデルに変換する処理は、Roipaintというソフトウェアを用いました。
(参考)https://fabble.cc/sakihokato/ctxxxxxxxxxxxx

モデルは完成!

Roipaintをつかって、stlファイルで保存。
meshlabでできあがったデータをチェック。

綺麗にスキャンすることができました。

3Dプリントの準備

Repetier Host、Slic3r用いて、gcodeを作成。

いよいよ3Dプリント!

MF2200-Dで、いざ出力。
一層目から問題なくスムーズにできました。

完成!

7時間ほどかかって完成。
スケールを変えなかったため、瓜二つのものができあがりました。
複雑な構造をしていましたが、その構造ごと綺麗に複製できました。

実物と並べてみると、
素材が異なる同じ形のものが隣同士で不思議な感じ。

もっと複雑なものにチャレンジ

次に、トビケラという昆虫の巣を、3Dプリントで出力することにしました。
トビケラは小さな水生の昆虫で、幼虫の頃に自分で小枝を集め、服を纏うように巣をつくります。
水生版ミノムシといったところです。

先ほどと同様に、
CTスキャンを用いてdaicomデータを取得
→RoiPaintで処理、stlデータに変換
→スライスソフトでgcodeを作成

トビケラの巣は構造が複雑で、
RepetierHost、Slic3rでは上手くスライスできなかったため、Simplify3Dを使用しました。

いざスライス

上手く3Dプリントできるように、いろいろな向きでモデルを置き、一番いいスライスの仕方を探してみました。

結果、
サポート材の付き方も考慮して、横向きにし半分切り、片方ずつ出力することにしました。

見えにくいですが、灰色でサポート材が表示されています。

3Dプリント、失敗

トビケラの巣は元々が小さいため、300%にスケールして出力してみました。
ですが、それでもまだ小さすぎ、複雑な構造をしているために、ぐちゃぐちゃになってしまいました。

30分ほど動かして、中断。

大きくして再チャレンジ

800%にスケールして、プリント開始。

今度は上手くいきました。
造形途中が神秘的です。

出力完了!

15時間ほどしてまず片方完成!
サポート材も上手くついているようです。

こんなに複雑な形のものが、無事出力されたことに感動。
机から生えてきているようです。

もう片方も同様に出力

半分にしたもう片方も、同じように800%の大きさで、出力しました。
こちらも15時間ほどかかりました。

サポート材除去

枝一本一本が折れないように、慎重にサポート材を除去していきます。
細かなところは超音波カッターを使用して取り除きました。

途中経過が、いかのおつまみみたい。

ふたつをくっつけて完成!

片方ずつ出力したものを、同じ向きにくっつけ合わせ、ついに完成!

元々のトビケラの巣はとても小さく扱いづらいため、
今回800%で複製したことにより、その構造がよくわかります。

また、実物と違い全体が単色であり、色や模様の情報がないため、よりその構造に着目することができました。

横から見た図

トビケラが入る空間も、再現できています。

実家にお持ち帰り

茨城県にある実家に、今回作ったふたつを持ち帰り、父にプレゼントしました。

作っていることを何も知らせず、サプライズで渡したので驚いていました。

お父さんは3Dプリンタ自体見たことがなく、3Dプリンタで作られたものも見るのが初めてだったため、とても関心していました。
特にトビケラの巣には、「一本一本の枝の組み合わさり方がすごい」「トビケラがこんな芸術的な巣を作るなんて驚きだ」と興味津々でした。

今回の製作を通じて

CTスキャンを使用しての作業はわからないことも多く、RoiPaintの使用も初めてだったため、失敗の繰り返しでした。
ですが、成功しないんじゃないかと思っても、あきらめずにいろいろな方法を試してみることで、結果的に作品も完成し、自分のスキルも向上しました。

自然物をデータとして扱うことで、じっくりと向き合い、「この植物・昆虫はどういった生物なんだろう」「この構造はどうしてこんな形をしているのだろう」と疑問も生まれ、それについて考えたり調べたりすることで、それらについてとても深く理解することができました。

父親に喜んでもらうこともできて、自分も多くを学ぶこともできて、取り組んでよかったです。


今後の展開

今回の製作過程の中で理解した自然物の構造を、
今後はデザインに還元し、Bio-inspired Designとして応用していきたいです。