For whom
想定される使用者
車いすで生活をされる、もしくは治療等で一時的に車いすを使用されている方で、点滴が必要な方。
また、その介助者。
Why
背景
車椅子と点滴棒、両方持って移動したこと、ありますか?
ここがこのアタッチメントを作った出発点です。
病院や施設、自宅でも車いすで生活されている方が点滴や栄養のために点滴棒を利用するケースがあります。
しかしながら、自走される場合でも介助者がいらっしゃる場合でも、車いすと点滴棒をセットで移動するのは大変です。
車椅子は両手で使用するべき
車椅子で移動するシーンを考えると、自走もしくは介助者は1名です。点滴棒を同時に運ぼうとすると、足の間に挟む若しくは介助者が片手で点滴棒を支えながらもう一方の手で車いすを押す形になります。
点滴や車いすの安定性や、段差や傾斜を考えるとこの行為は危険であり、車いすは両手で使用するべきなのは明白です。
市販品はあるが専用品が多く、取り回しに難がある
点滴棒に対応した車いすも販売されていますが、数は多くなく、病院や施設を見渡してもごく少数です。
また、車椅子に取り付ける点滴棒とアタッチメントは市販品があるものの、容易に取り外しができないものが多く、必要な時、必要な車いすに固定するには難がありました。
棒が固定できれば良い
点滴棒自体は上部を引っこ抜けるものが多く、足部分なしでの運用が可能なことが多いです。また、予算が限られている施設などでは点滴棒そのものがあまりなく、細めの棒にフックなどを取り付けて点滴をぶら下げているシーンも見かけます。
そこで棒が車いすに簡単に固定できる、汎用性の高いアタッチメントを制作することにしました。
HOW
基本コンセプト
下記をコンセプトとして制作しました。
汎用性
多くの車いすで利用が可能
固定性
棒を付けた状態で安定し、脱落しない
着脱性
上記を満たした上で簡単に着脱できる構造とする
低コスト
コンパクトでシンプルな設計
造形の容易性
3Dプリンターで作りやすい形状
目を付けたのはティッピングレバー
棒を固定するのに適した強度があり、ほとんどの車いすにあって形状が変わらない部分。そこで目を付けたのがティッピングレバーです。
この部分にアタッチメントを取り付け棒を固定、その上方にある車いす背もたれ部分の布とフレームの隙間を利用すれば2点での固定が可能になります。
3D CADを用いた設計
基本的には棒を引っ掛けた際にその重みで安定し固定される形状を考えてCADでの設計を行いました。
点滴棒が入る部分は当初は垂直な筒でしたが、引っ掛けると傾くのでそれを考慮した角度に修正しました。また、当初はヒンジを内蔵した可動部がある設計でしたが、最終的にはS字フックのような形状としました。
パーツは2つとし、差し込む場所を変えることでより多くの車いすに対応が可能です。かかる負荷は点滴棒と点滴のみなので大きくはありませんが、フック部分への影響に配慮しサイズは検討しています。
完成品と試作品
ベージュのものが今回制作した完成品で、黒色のものが代表的な試作品になります。
完成品は収納時最小限のスペースで置いておけるように配慮しています。約10㎝角のビルドプレートでも2パーツを印刷可能でサポート等も不要です。
黒色の試作段階ではより大きく、引っ掛け部分もフックではなく門型で、一体印刷が可能ではありますが可動部がありました。完成品になって半年程度使用してもらっていますが今のところトラブルはないようです。
印刷しやすい工夫
必要としている方やその周囲が気軽に印刷して使えるように、造形難易度にはかなり気を使いました。
造形サイズはなるべく小さく、ベッドが小さめのプリンターでも印刷可能で、サポート等は一切不要です。
今回はSTLのみでなくそのままビルドプレートに置ける3MF形式もあります。ベッドサイズが10㎝角程度あれば造形が可能ですし、比較的多くの機種が採用する250mmサイズであれば4つ同時に印刷できるため事業所や病院で複数個欲しい場合も時間が省略できます。
推奨印刷設定
材料はABS 240℃程度 ベッド温度約100℃積層0.2−0.3mm
積層0.2−0.3mm
サポートなし ラフトなし
壁4層、インフィル20% 壁印刷順序は内側から外側 シームはランダム(強度均一化のため)
ボトムは同心円状(反り防止のため)
速度はお好み、ただし最初の2層はゆっくり目がベター
※画像1つ目は1層目の同心円パターンです。一般的な斜め方向の1層目と異なりぐるりと回る形なので収縮方向が分散出来るためお勧めです。
※画像2つ目は棒が入る部分の天井です。斜めに少しずつブリッジしていくので印刷しやすくなっています。
作成したファイル(STL形式)
車いすアタッチメントSTL
(ファイル容量制限のためzip形式です。)
印刷方向定義済
2つの部品がまとまっているので分離はできません。
作成したファイル(3MF形式)
車いすアタッチメント3MF
印刷方向定義済
STLと異なり2つのオブジェクトの分離が可能です。
Outcome
車いすの柔軟な運用
このアタッチメントにより多くの通常型車いすに点滴棒を取り付けることができます。
脱着が容易なため、少数あれば柔軟な運用が可能です。
病院の外来や施設、自宅など急に点滴が必要な場合でも専用の車いすが不要で手近な車いすを使って利用が可能となります。
点滴棒の転倒リスク、車いす介助事故の軽減
車いすと点滴棒を同時に移動する場合に発生する下記リスクを軽減できます。結果として介助者の負担軽減につながると考えられます。
点滴棒の転倒
点滴ルートの巻き込み事故
車いすを片手操作することに起因する介助事故
些細なことですがこの小さな製品で車いすにかかわる方の利便性向上が出来ればと思います。ぜひご利用ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!