はじめに

こんにちは。
福岡雙葉高等学校の梅崎、柳瀬、石田です。今回私達はコロナウィルスの影響により、夏休み中に実際に会って一緒に活動する、ということが一切できませんでした。
そこでzoomを使用してできるだけたくさんのことを話し合いました。画面越しになるだけで自分の意見が相手に上手く伝わらないなど、難しく感じる場面も多くありましたが、その分より多くのことを感じ、考え、学び、経験することができたと思います。
コロナ蔓延の時期だからこそ、成長できたこともたくさんありました。
そんな私達の活動の記録を、どうぞご覧ください。

アイディア出し

まずはアイディア出しを行いました。
出た意見は
・洋服
・そのまま植えられるビニルポット
・ペットボトルのキャップを落とさないように本体と連結させられるもの
・植物の支柱
などです。

これらの他にも様々な意見が出る中、私達に共通した考えは
日常生活を便利にできるもの
自然環境に優しいもの
を作りたいということでした。

ペタリワーク(写真のサイト)

きっかけ

この二つをふまえてもう一度意見を交換すると、私達の間で風船の話が上がりました。
知っている人もいるのではないでしょうか。
『土にかえる風船』。名前の通り土にかえるため、どこかへ飛んでいってしまっても環境を汚す心配のない風船です。
ちょうどFabLabKamakuraの方からこの風船と同じ原理のプラスチックがあることを聞いた私達は、そのプラスチックを使用した製品をつくることにしました。
風船の写真

第一決定

そこで私達が選んだのが洋服です。
〈理由〉
・着れなくなった洋服は廃棄されることが多い
・発展途上国などに送ったとして無駄になることの方が多く、ごみの山になっている現状がある
・洋服ならば日常的に使うためより多くの人に見てもらえる
このような理由から私達がめざす二つのことも達成できるのではないかという結論に達しました。

つまずき

さて、気づいた方もいらっしゃるでしょうか。
私達はここで、一つの失敗に気づきます。
それは服は布で作られているということです。プラスチックではありません。もっと正確にいうのなら3Dプリンターで形作るプラスチックではとても着れる服なんてつくれません。作れたとしてもカチコチの動けない洋服なのは目に見えています。すっかり失念していました…。
なぜ最初に気づかなかったのかとは思いますが、洋服は諦めるしかありません。
何を作るか、私達は再び頭を悩ませました。

二度目のアイディア出し

せっかく洋服の案が出たのだから、何か洋服に関連するものを考えようと話し合った私達。どんなものが作れそうか案を出し合いました。
〈出た意見〉
・バック
・ボタン
・アクセサリー
意見を出していく中で最も私達の間で盛り上がったのがクリーニングの話です。
みなさん少し考えてみてください。クリーニングに出した洋服を受け取る際、必ずと言ってくるほど一緒についてくるものがありますよね?

そう、ハンガーです。

ハンガー

皆さんはクリーニングでもらったをどうしていますか?
廃棄する人、貯めている人、様々だと思います。
廃棄する方、ハンガーの廃棄は面倒くさくないですか?
木製、プラスチック製、針金製、アルミ製、ステンレス製__。多くの種類が存在するハンガーの分別は大変だと思います。
また、貯めているという方。ハンガーは想像以上に場所をとりませんか?収納は大変ではないですか?
我が家では紙袋に収納しているのですが、最近は量が増えすぎていつ紙袋の底が抜けてしまうかとヒヤヒヤしています。

そこで私達が考えたのが生分解性の折り畳み式ハンガーです!!
ハンガーの写真

利点

・捨てるときに分別を気にすることがない
・収納が簡単
・旅行のときなどに簡単に持ち運べる _etc.

先ほどあげたハンガーのデメリットがこのハンガー1つで一気に解決します!!

二度目のつまずき

作るものもハンガーに決まり、試験的に作った紙粘土のハンガーも無事に完成し、意気込んで3Dでもモデリングを初めた私達でしたが、再び壁にぶつかることになります。
『折り畳み式』のハンガー。
当然洋服をかけるときには曲がらないようにしなければなりません。
しかしこれがなかなか難しい。
細かいことは後程説明しますが、これはなかなか改善方法が浮かばず話し合いもなかなか進みませんでした。

変更

なかなか代案も浮かばない私達でしたが、渡辺さんからもらったアドバイスのおかげで完成の光が見えてきます。
それは、折り畳み式ではなく、スライド式に変更してみてはどうか、というものでした。
確かにスライド式に変更すると折りたたむ必要もありませんし、折り畳み式の物よりさらにコンパクトにできることが予想されます。
ありがたく渡辺さんのアドバイスを取り入れさせていただき、私達の製品『折・hunger~微生物パワーで豊かな暮らし~』の原型が完成したのです。
写真:製品制作に使用したデュラビオ(プラスチック)

hunger!

簡単にではありますが、資材の説明や類似品の紹介を行いたいと思います。

今回使った資材

今回のテーマが『循環型社会を促進するこれからの暮らし方』ということで、実際にはフォゼアスという生分解性のフィラメントを使用する予定です。
しかし、これは角が綺麗にならないなどの問題があるため、今回はデュラビオを使用しました。
デュラビオも従来の物より環境に配慮したフィラメントです。

今回作る製品との類似品

最近では使う用途に合わせて便利なハンガーが沢山あります。
ハンガーには先ほども書いたように、プラスチック製、ステンレス製、スチール製などがあり、今回私達が注目したプラスチック製のハンガーは加工がしやすく、コストも低く抑えられているためたくさん出回っています。
そんなハンガーについて調べてみると折りたためるタイプや肩幅を変えられるタイプなど様々な便利グッズがあることを知りました。
ハンガーの写真

名前の由来

私達の製品の名前は『hunnger~微生物パワーで豊かな暮らし~』です。
違和感を覚えた方も多いのではないでしょうか。
ハンガーのつづりは本来「hanger」。どうしてaがuなの?と感じる方も少なくないでしょう。
「hunger」という単語は「飢え」を意味します。
環境に優しい土にかえるハンガーをつくるということでhangerのスペルのaをuにかえてhungerにし、微生物が食べて分解してくれるという意味を込めてこの名前にしました。

検証

私達の製品ができるまでの大まかな流れは先ほどの通りです。
それでは今から具体的な流れと実際に使ってみての感想を紹介していきたいと思います。

原案

グループ内で折り畳み式のハンガーを作ることを決め、今回の製品の原型となるデザインを陰影をつけてデザインしました。
当初は、ハンガーの柄の部分に加えてフックの部分も折り曲げて収納できる王に設計していました。

紙粘土

デザインが決まったあと、紙粘土を使用して製品の模型を作ることによってイメージを固めていきました。
造営する中で
・実際のハンガーのほぼ原寸大にすること
・左右の折り曲げる部分が重ならない寸法にすること
・3Dモデルを作る際にどこを折り曲げたらいいのか分かるように切れ目を入れること
・hungerを視覚的に楽しめるよう、真ん中の根元の部分に感謝の言葉を添えること
といった工夫をしました。
いい感じ!

3Dでモデリング

今回は3Dモデリングソフト:TinkerCadを使用してハンガーの3Dモデルを制作しました。
モデリングの際にハンガーの内側を空洞にすることで、柄の収納と製品の軽量化を同時に実現できるよう、先ほどの紙粘土での試作から改善しました。
また、フックの部分は他のパーツに比べて表面積が小さく、折りたたむための部品を付けた場合すぐに取れてしまう可能性があったため、折り曲げないデザインに変更しました。

トラブル発生!!

折り畳み式ハンガーは、紹介したような類似製品がすでに製品化されていたことを監督の先生に教えていただき、急遽製品のデザインを変更することに。
改善策について話し合い、スライド式にして柄の部分を収納する案が最終的に採用されました。
また、これによってメリットも生じました
(1)折りたたむ際に指を挟んで怪我をするなどと言った事故が起こらなくなる
(2)柄を折りたたむため、部品(汽船で囲んでいる箇所)は円柱と円柱型の穴で造形され、3Dプリンターでデータを印刷する際に凹凸があると上手くかみ合わない可能性があったが、その心配がなくなる
(3)伸縮自在のため、大きめのサイズの服も小さめのサイズの服もかけることができる

3Dモデリング

変更をふまえ、スライド式のhungerをtinkercadで作成しました。
柄の部分をスライドさせる仕組みを考えるのはおもっていた以上に大変で、グループ内でも1時間ほど話し合いました。
そして話し合いの結果、電車のレールの機構を採用しました。
また、柄の部分を覆うことで部品を固定できるよう工夫しました。

試作①

〈改善点〉
・デュラビオを使用したこともあり、製品本体からサポート材を取り除くのに時間がかかってしまった
・レールの部分が上手くかみ合わず、パーツを収納できなかった
・文字が一部つぶれてしまった

〈良かった点〉
・ハンガーの部分が思っていたより上手くできていた
・イメージしていた大きさで印刷できた
・やすりでレールの凸の部分を削ってみたら収納できるようになった

試作②

先ほどの改善点をふまえ、もう一度hungerの作りを見直しました。
今回は色を黒にかえ、素材は試作①と同じくデュラビオで作成しました。
しかしレールの穴を小さくしたこともあり、サポート材を取り外すのが不可能でした。1、2時間ほどファブラボ大宰府の方にも手伝っていただきながらサポート材の取り外し作業を行ったのですが、細かい部分の取り残しが目立ち、各パーツを結合することができませんでした。
そこで、一端形をつくるためにプラスティックの種類を変更しサポート材の外れやすいPLAという素材を使用してハンガーを作ってみることにしました。

試作③

実際にPLAを使用し、ミニチュアサイズでhungerを作成しました。
形自体は上手くいき、レールの結合部分もスムーズに入るようにはなっていたのですが、収納の際に肩先の部分を奧に入れ込み過ぎると取り出せなくなってしまうという課題があることに気づきました。

改善方法

そこで私達が考えたのは取手を付けるというものです。
原案が右のイラストになります。
hungerの肩となる部分にも凹みをつくり、少しでも使い勝手の良い形を目指しました。

取手

取手自体は上手く付けることができ、取り出しも楽になったのですが、その代わりに取手部分が引っかかり、ずべてを収納できなくなってしまいました。(写真①)
また、取手の取り外しは可能なのですが、取手部分がちいさいこともあり収納の際に取り外すと無くなってしまう恐れがありました。
そこで取手の厚さを薄くし、縦にするとレールの隙間に入り込めるように設計し、収納をさらに便利にすることにしました。(写真②)
他にも案としては取り外しタイプではなく、肩先のパーツに最初から手で持てるでっぱりを作っておくというものもありました。

試作④

これらをふまえて改めて3Dプリンターで作成するとこんな感じに出来上がりました。
小さめのサイズで作成したものもいくつかあるので、細かいところには少しつぶれてしまっているところもありますが、これをベースとして作ろうとみんなで決めました。

角

ただ、この形では角が角ばっているので洋服が傷んだり布が伸びたりしてしまう可能性がありました。そこで、もっと滑らかな形にしようといくつかの形を考え、その中で最も収納性が高く洋服も傷みにくいものを選びました。

肩部分完成

案を元にティンカーキャドで設計をし直し、完成したものがこちらになります。
洋服に負担のかかると思われた肩先部分を滑らかに、そして、くぼみを作ることで取手をつかみやすく、また、ジャンバースカート等も掛けやすい形にしました。

フックの収納

また、フック部分も収納が出来た方がより便利になるのではないかと考え、折り畳みができる仕組みを考えました。全てを同じ厚さにするのではなく、一部分を薄くすることで弱い力でもフック部分と本体部分の結合ができるように工夫しました。

フック

フックの収納が可能になり動作も問題はなかったのですが、設計時のミスでフックの部分の大きさが大きくなってしまっていました。
フックがはみ出すと、肩部分の収納も難しくなってしまいます。
そこでフック部分の半径を小さくし、幅自体も少し短くしました。
(写真上:収納前)
(写真下:収納後)

hungerの使いにくさ

hungerは伸縮可能なハンガーとして作成しましたが、その使いにくさとして『結合の際にどことどこを組み合わせればよいのかがよく分からない』というものがあります。
そこで人と猫が歩いているイラストをティンカーキャドで読み込み、それぞれが歩いている向きにそれぞれの足跡がついているパーツを結合するようにしました。

印刷

今回は時間が足りず、全てのパーツを1から印刷しなおすことは難しかったので、いったんどのように印刷されるのかを見るために本体部分にいらすとを載せて印刷しました。
人は飛び出すように、猫はくり抜くように印刷して、実際に正しい位置に配置したときどう印刷するべきかを比較できるようにしました。

本来の配置

本来であればこのイラストの配置はこうなる予定です。
今度またファブラボ大宰府にお邪魔して、正しい配置の物も作りたいと思います。

合体!!

いよいよすべてのパーツがそろいました。
こちらが私達の作品となります。
原案に比べるとかなり形も性能も変わりましたが、原案よりもずっと良いものが出来たように思います。
良い案が浮かんだ!と思っても、実際に形にしてみると課題や気になるところはたくさんあり、商品を形にすること、そして誰かに使ってもらうということは、とても難しいことなんだなと感じました。

未完成

さて、商品の形は出来上がりましたが、私達の目指す商品はまだまだ完成ではありません。
私達が目指すのは『生分解性』のhungerだからです。

フォゼアス

フォゼアスというフィラメントは生分解性のコンパウンド樹脂です。
プラスティックなのに土に還る、とても環境に優しい素材です。
しかし、フォゼアスを使用して3Dプリンターで何かを作ろうとするといくつかの問題が生じます。

フォゼアスを使うむずかしさ

フォゼアスは柔らかい素材です。その上フィラメントの固まる速度が遅いため、細かな造形にはあまりむいていません。
私達も実際、フォゼアスで一つパーツを作ってみたのですが、たわみや糸引き、造形の乱れ(隙間ができるなど)が目立ち、hungerをつくるのは難しそうでした。

終わりに


今後の展望

今回は使える時間が短かったこととコロナウイルスの関係で、いろんな人に使ってもらうことは出来ませんでした。したがって、これからは完成した製品を多くの人に使ってもらい、より多くの人が使いやすいと感じられる製品へと改善していきたいと思います。
また、今はまだフォゼアスでの製品化はできていないので、フォゼアスでも綺麗に形を出せるように設計などをもっと工夫していきたいです。

最後に(1)

冒頭にも書きましたが、今回私達はコロナウイルス蔓延の影響で満足に顔を合わせることすらできない状況でのスタートでした。
私達のチームはみんな初対面なこともあり、最初の二日はだれもほぼ何も喋らないような状態で、正直不安はとても大きかったです。しかし、今となってはみんなで「最初このメンバーじゃやっていけないと思ってた…」なんて笑えるようになりました。
話し合いを重ね、試行錯誤していくうちに少しずつ会話も増え、緊急事態宣言解除後に初めて直接会ったときには最初の頃が嘘のようにみんなでいろいろなことを喋りました。

最後に(2)

また、緊急事態宣言が解除されてからは、放課後や休日にもファブラボ大宰府さんに赴き、何度も何度も試作と失敗を繰り返しながら少しずつ形を作り上げていきました。
通話をしながら徹夜の作業をしたり、周りのみんながお休みでのんびりしているときに朝からファブラボ大宰府さんが閉まるギリギリの時間まで話し合いを重ねたり、きついことも大変なこともたくさんありましたが、少しずつでも自分達の製品が出来上がっていくというのはとても楽しくていつも気づけば時間がたっていました。

最後に(3)

私がここまで頑張ってこれたのは、チームのみんなやサポートをしてくださった多くの方々がいたからです。一人では絶対にここまでできなかったと思います。

この製品を作るにあたって、3Dプリンターはもちろん、レーザーカッターなど様々な機材を利用し、少しでも未来や社会を良くできるものづくりをすることの楽しさをとても感じました。
私達の製品はまだまだ未完成です。私達はもちろん、このページを見てくださった方がひとりでも私達と同じように未来を見据えたものづくりに興味を持ってくださったら嬉しいです。

ありがとうございました。