文字を見ながらアイデアを出す

今回はイラレ上でフォントを選んでアウトラインデータを作成し、それをCADソフト(Fusion360)に読み込んで3Dデータを作成することにした。
むやみに3Dプリンターで出力してしまうと、材料のフィラメントが無駄になってしまうかもしれないからだ。だから、最初はイラレでアイデアをふくらませるのである。いわばシミュレーションである。(いいすぎ)

という訳で、早速文字を選んでいくことにする。

ちなみに、今回文字を選ぶにあたっては、
  • ひらがな、カタカナ、漢字のいずれかである
  • 文字が読める状態である
  • 実用性がある
という3つの条件を用意した。

イラレが落ちないことを祈りつつ、作業に取り掛かる。


用途を先に決めることにした

字型一覧を眺める作業は結構地味な上に時間がかかる。
思っていた以上に文字は結構多い。
それもそのはずだろう。一般的に、日本語フォントに収録されているひらがな・カタカナ・漢字は約7000文字*もあるのだ。
そんな膨大な数の文字をひとつひとつ考えるのは疲れてしまうので、先に日用品として使えるであろう用途を文字を選定する前にテーマとしていくつか決めてしまうことにした。

*Windows7,Vista搭載のMSゴシックが収録している非漢字・第一水準漢字・第二水準漢字の文字数を合計した数値です。(文字セットについて|フォント|産業向け製品|リコー)

用途(テーマ)を先に考える

手元にあったポストイットにテーマ案を出していったのだが、なかなかに考えるのが難しい。
そりゃそうだ。誰だって文字をそのまま日用品にしようだなんて考えないだろう。
ともあれ、ポストイットとボールペン片手に1時間ほど真面目に悩んだ結果、以下のようなアイデアをしぼり出した。

【テーマ案(仮)】
  • スマホスタンド
  • ハンガー
  • フック
  • クリップ
  • メガネスタンド
  • イヤホンを巻けるやつ
  • フタをとめるやつ(パンとかの口についてるアレ)
  • ペン立て

なんだか結構無理矢理な感じ(メガネスタンドのあたりとか)があるが、なんとか道筋は見えてきたかもしれない。
さっそく新たに考えたテーマをもとに作業を続けていく。

文字選びが難航している

条件を決めたとはいえ、なかなかに字が多い。
とりあえず、今まで作業をしていてなんとなく気づいてきた点を挙げておくと

  • 「ロ」とか「口(くち)」とか「目」あたりはかなり実用性高そうだけど、ちょっと捻りがほしい(ほぼ四角形だし。ズルい!)
  • 部首がかなり便利そう(こざとへん阝とかにんべん亻とか)こざとへんに関してはつい候補に入れてしまった。
  • フォントによって字形が異なる字がある(当たり前だ)

フォントによって字形が変わるのは結構やっかいで、特に「り」とかの字が危険だ。(間の部分が繋がっていたりつながっていなかったりする)


印刷する文字の決定・印刷・評価

紆余曲折を経て、ついに使えそうな文字を絞り込んだ。
テーマのうち、どうしても見つからなそうなものはボツにしたりしたが、作っている過程での思わぬ発見や誤算もあったりした。
ここからはそれぞれのテーマに関して、それぞれの文字がどれだけ日用品として使い勝手が良いか★、★★、★★★の三段階で評価しながら紹介する。

なお、文字のフォントは「游ゴシック体 Bold」で統一した。(好きだから)




【スマホスタンドとして使えそうな文字】

スマホスタンドとして使えそうな文字としては、「ん」、「山」、「上」を検討した。
早速印刷に取り掛かる。
まずは、イラストレーターで文字のアウトラインを作成する。
この時に、文字のサイズも実寸で作成しておくのがポイントだ。
そして、データをsvg形式で書き出してCADソフト「Fusion360」に読み込む。
後は、文字を予め考えておいた厚みに押し出して完成だ。
最後に、STL形式に書き出して印刷をする。

では、一つずつ見ていこう。

「ん」スマホスタンド度★★☆

この「ん」は見た目がなかなかよい。
特に、スマホをセットした時にちょうどよく斜めになってくれるところが嬉しいところだ。

しかし、唯一の欠点としてセットが難しいのと不安定な点が挙げられる。
スマホスタンド的には致命的だ。
2枚目の画像の様に立てかけるのが理想だが、そのままだと滑って落ちてしまう。
ズルいようだが、今回はスマートフォンに滑りにくいケースを装着することでなんとか立てかけた。

見た目は良いが、使い勝手がよくない(滑る)ので、★2つだ。

「山」スマホスタンド度★★☆

「山」は、かなり特徴的なスマホスタンドだ。
スマホをセットすると、1枚目の写真の様に垂直になってしまうのだ。
写真や動画を撮る時にはとても便利だが、動画を視聴したりするのは難しい。
しかし、安定性はとてもよい。「ん」の様にスマホが滑り落ちることはまずあり得ないので、安心して使うことができる。

安定性は良いが、用途が限られてしまうのはマイナスだと思い、★2つとした。

「上」スマホスタンド度★★★

「上」はスマホスタンドとしては、優等生的な存在である。
「ん」レベルの見やすさ(傾き)を持っていながら、「山」に匹敵する安定感があるのだ。

しかし、そんな「上」にも欠点はある。
なんと、使う際に転倒防止のために輪ゴムを巻かなくてはいけないのだ。
実は3枚目の写真のように、文字の2箇所の部分に輪ゴムが巻かれている。
今回は、一見目立たないということで許容範囲とした。
また、1つの「上」だけだとスマホが落ちてしまったため、安定して立てかけられるようにするために2つの「上」を使用する必要があった。

欠点を持ちつつも、それをカバーできるだけの安定感と使いやすさがあったため、★3つとした。

【フックとして使えそうな文字】

お次は、フックだ。フックは「し」と「ヒ」を当初検討していたが、ある条件下では「モ」がかなり使えそうだと判明したので、最終的には「し」、「ヒ」、「モ」を印刷した。

「し」フック度★★★

「し」に関しては、誰もがフックだと認める形状だろう。
実際、テープを使用して壁につけてみた際も完全にフックそのものであった。
少しズルい気もするが、フックとしての評価はもちろん満点だ。
ということで、★3つ。

「ヒ」フック度★★★

お次は、「ヒ」だ。
「し」と並んでフックっぽい字である。
実際フックとして使ってみると、2つの物を同時に掛けることができるなど、実用性も高い。
こちらも、文句なしの★3つであろう。

「モ」フック度★★☆

さて、「し」、「ヒ」と優等生的な文字が出揃ってしまい、少しつまらないので変わり種を試すことにした。
「モ」だ。
これは、「し」や「ヒ」のようにテープなどで固定するのではなく、写真の様に机などに直接挟んで使用する。

それぞれの机の寸法に合わせて作る必要があるのが難点ではあるが、「ヒ」のように2つの物を同時に掛けることもできるなど、使い勝手の良いフックになったのではないだろうか。

今回は、使える場所が限定されるので★2つとした。

【クリップとして使えそうな文字】

お次は、クリップだ。
クリップは、「両」「曰」「の」「ね」「れ」の5文字について検討した。
ここでは、かなり結果が別れたので、まとめつつ紹介する。

「両」「曰」クリップ度★★★

「曰」と「両」はクリップとして使うために生まれてきたのではないかと思うくらいクリップだった。
写真の通り、しっかりとクリップとしての役割を果たしている。
文句なしの★3つだ。

なお、すべての写真で「曰」が逆になっている事に気づいた人はどのくらいいるだろうか。
これは、単純に僕の勘違いだ。
自分も文字をよく見ていなかった事が露呈してしまって恥ずかしいので、やさしい目で見てもらえるとありがたい。

「の」「ね」「れ」クリップ度 ☆☆☆

写真の通り、「の」「ね」「れ」は先程の「両」「曰」とは対照的に全くクリップに向いていない文字だった。
悲しいことに、漢字の前にひらがなは太刀打ちできなかったのである。
当然、クリップ度は最低の★0である。

しかし、この文字たちは後ほど、新たな活躍の場を見つけるのである。(楽しみにしていてください)

【パンの袋をとめるアレとして使えそうな文字】

パンの袋をとめるアレ(バッククロージャーと言うらしい)として使えそう文字に関しては、「阝(こざとへん)」を検討しようとしていた。
しかし、先程のクリップの結果を見たところ、「ね」「の」「れ」に関しても使えそうだったので、追加で検討することとした。

「阝」バッククロージャー度★★★

「文字」を日用品にするというテーマなはずなのに漢字の部首を持ち出してもいいのだろうかという葛藤の中、結局試すことにした「阝(こざとへん)」であるが、これはものすごく「パンの袋を止めるアレ」として適任だということが分かった。
写真の通り、言うことなしの★3つである。

「ね」「の」バッククロージャー度★★☆

「ね」「の」は1つ前の【クリップとして使えそうな文字】の検証時に、全くクリップとして使えないという結論になった文字だが、ここに来て異例の活躍を見せた。
写真のように、先程の「阝」ほどの使いやすさはないまでも、しっかり袋を閉じていることをお分かりいただけるだろうか。
しかし、「ね」の右半分が手に引っかかりやすかったりするなど、少し使いにくい形状になっているため、評価は★2つとした。

「れ」バッククロージャー度★☆☆

「れ」は「ね」、「の」同様に袋をしっかりと止めているように見えるが、実際は下の部分が開いているため、はめこんでも袋が開いてしまう。
つまり、「パンの袋を止めるアレ」としては使えないのである。

しかし、写真ではあたかもしっかりと袋を止めているようにみえるため、★1つの評価とした。

【ペン立てとして使えそうな文字】

ペン立てとして使えそうな文字として検討したのは「井」、「凹」の2つだ。
当初は、「中」や「ロ」、「凸」なども検討していたが、ペン立てという用途の都合上、縦方向に長く出力する必要があり、3Dプリンターのフィラメント消費が激しいため、それらの単純な文字に関しては試さないこととした。(おそらく試すまでもなくペン立てとして使えるだろう)

「井」ペン立て度★★☆

「井」はペン立てとしては普通に使える文字である。
出力サイズの関係で、ペンが2本しか入らないという致命的な欠点があるものの、「井」の周囲にポストイットを貼り付けたり、クリップをつけることができる上、横にすればスマホスタンドとしても使用できる。

ということで、評価はおおよそ中間にあたる★2つとした。

「凹」ペン立て度☆☆☆(評価できず)

「凹」は文字自体には問題がないが、出力時の寸法を小さすぎる大きさにしてしまい、ペンが一本も入らなくなってしまったので☆☆☆(評価できず)とした。

なお、もし先程の「井」並の大きさで出せていたとしたら、おそらく「井」よりも多くのペンを凹の形状に沿って綺麗に立てることができただろう。
また、くぼみの部分をメガネ置きなどとして使用できるなど、ペン立てとしては理想形とも言えただろう。

【イヤホンを巻くやつとして使えそうな文字】

イヤホンを巻くためのケーブルホルダーとして使えそうな文字は「缶」を印刷した。
最初から、1つしか印刷できなかったが、これには理由がある。
イラストレーター上にて文字を検討する際、きちんとイヤホンを収めるためにはおよそ縦横10cmの大きさまで文字を大きくしなければならないと気がついたのである。
そのため、先ほどと同様にフィラメント節約のために「缶」1つだけを印刷した。

「缶」イヤホンを巻くやつ度★★★

「缶」はイヤホンを巻くケーブルホルダーとして、最も適した文字だと言える。
写真の様にケーブルを巻いておくだけではなく、イヤホン本体までも安全に保護できるのだ。
少々大きいのが難点ではあるが、持ち運びできないほどではなく、十分に実用性があると言える。
個人的には、今回作った文字の中において一番実用性が高く感じた。

まとめ

今回調べた文字を一覧にしてまとめると、以下の様になる。
【スマホスタンド】
「ん」★★☆ 「山」★★☆ 「上」★★★

【フック】
「し」★★★ 「ヒ」★★★ 「モ」★★☆

【クリップ】
「両」★★★ 「曰」★★★ 「の」☆☆☆ 「ね」☆☆☆ 「れ」☆☆☆

【パンの袋をとめるアレ】
「阝」★★★ 「ね」★★☆ 「の」★★☆ 「れ」★☆☆

【ペン立て】
「井」★★☆ 「凹」評価できず

【イヤホンを巻くやつ】
「缶」★★★

気づいたことと感想

まず、上のまとめからも分かるように、ひらがなの評価が比較的低い。
最初の頃は「ひらがなは単純な形をしているから使いやすいだろう」と思っていたが、単純な形だからといって使いやすい訳ではないらしい。シンプルイズベストではなかったのである。

そして個人的には、無理やりではあるが、思っていたよりも上手く文字を日用品として役立てる事ができて少し安心している。
時間がない中での作業ではあったが、イラレでの作業時に、文字が意図せずおもしろい配置になってしまったりするなど、楽しい時間だった。


今回作成した3Dデータを公開します。

なお、今回作成した3Dデータはこのページで公開します。
制作当時のままなので、乱雑な作りではありますが、興味のある方はぜひ3Dプリントしていただき、文字を身近に感じていただければと思います。
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