背景/Background

紙漉きには欠かせない「簀(す)」。その制作には大変な技術と時間が必要です。
伝統技術の継承のためにはより多くの方にその技術を体験していただくことも重要ですが、非常に高価な道具のため、多くの職人さんは破損を恐れて他人にそれを貸すことはありません。加えて、紙に透かし模様を入れるためには「簀」に細工をする必要がありますが、同様の理由からよほど裕福な工房でないかぎり、独自の紙の開発に取り組むことが難しい状況です。
そこで、富山県氷見市 漁業交流会館"魚々座"に展示されている「簀(すのこ)編み具」を参考に、デジタルファブリケーション機器を活用した、簡単で安価な編み具の制作に取り組みました。

事前リサーチ/Research


簀(す)編み具とは?

簀(す)は、細く割られた竹や萱(すすきなど)の穂軸を横軸とし、絹糸などの継ぎ目が無く非常に細い糸でそれらを編んでつくっていきます。
簀を制作している工房は日本全国に約10箇所ほどありますが、この写真のような形状の編み具が多く見られます。
(この写真は高知県 いの町紙の博物館にて撮影したものです。)

リデザインのヒント

富山県氷見市 漁業交流会館“魚々座”に展示されていた編み具は、これまで見てきたものとは形状が異なっていました。お話を聞いた所、これは簀ではなくよしず等少し大きめのサイズのものを編むためのものとのことでした。
しかしながら、糸の設置場所がとても分かりやすく、ズレも軽減されそうな印象を受けたので、ワークショップ用等簡易的に簀をつくるのにとても向いているデザインなのではないかと考えました。

デザイン/Design


モデリング

魚々座に展示されていたものを参考に、編み具をモデリングしました。
今回の設計要件は下記のように設定しました。
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・横幅200mm程度の簀が編めるようにする
・3Dプリンタ、レーザーカッターのみで制作できるものにする
・特殊な素材は極力使用しない
・ワークショップ等で使用しやすいように、道具のサイズは小さめにする

カット、プリント

レーザーカッターと3Dプリンタを使用し、パーツを切り出しました。
今回使用した素材は下記のとおりです。
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・アガチス板(w600mm, h100mm,t5.0mm)
・アガチス角材(w600mm, h30mm,t10mm)
・M3ネジ、ナット
・Φ5mm 丸棒
・PLA(3Dプリンタ用)
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3Dデータはこちらです。> crpj_01_160301.stl

組み立て

このようなかたちにリデザインしました。

使用テスト/Use test


糸巻きをセット

1本の糸の両端に糸巻きがくるように巻きます。このとき、巻かれた糸の量が全て同じくらいになるようにします。

横軸をセット

今回は、厚紙(t1.0mm)を3mm幅に切ったものを横軸にしました。

糸を交差させながら編む

横軸に糸を絡ませるように、手前側と奥側の糸巻きの位置を交換します。
交換したら横軸を置き、また交換をしたら...と編み進めていきます。

簀が作られる

どんどん編んでいくと、編み具の下から簀がでてきます。

課題/Issue

・糸巻きから糸がすぐにほどけてしまう
・編み始めに安定しない
・両サイドにストッパーを付けることで、横軸のズレを防げるのでは?
・糸をひっかけている部分は回転しないほうが良いかもしれない
・横軸を細くカットするための道具の開発を行う必要がありそう