砂浜を歩いて

ある日海岸に立ち寄ったときに、砂浜を歩いて一番初めに思ったことは「汚い」でした。
ペットボトルなどの大きなゴミも多いですが、細かくなって砂に混じっている様々な色のプラスチックが目によく止まり、とても気になりました。拾える大きさのゴミは回収しやすいですが、砂の中の小さくなったプラスチックの欠片は回収できるのでしょうか?
このプラスチックの欠片をできる限り回収し砂浜をきれいにしたいと思い、専用の道具を作ることにしました。

マイクロプラスチックとその問題点

ここで、マイクロプラスチックのことについて触れておきたいと思います。
海に流れ出たプラスチック製品は劣化し細かく粉砕されていきます。そのうちの5mm以下の欠片が「マイクロプラスチック」です。プラスチックには有害な科学物質を吸着する性質があり、特にマイクロプラスチックは生物の体内に取り込まれやすいため、生態系や人体への影響が懸念されています。実際に海の生物や海鳥のプラスチック摂取によるホルモン失調、摂食障害、魚の肝臓障害などが確認されているそうです。
小さくなったプラスチックは回収することが非常に困難になり、最終的には目に見えないほどの微粒子になりますが消えることはなく、いつまでも存在しています。

砂浜の現状・・・砂の中までプラゴミだらけ!

実際にどんなゴミがどれだけ砂の中にあるのか、鎌倉の腰越海岸で調査しました。
満潮時の波打ち際に残された、ベルト状に細かいゴミが多い場所の一部1m✕1m、表層5~7cmの砂約8kgを採取しゴミを調べました。

木の枝や葉以外のほとんどがプラスチック系のゴミで、重さ22.3g、欠片の数はなんと443個!特に驚いたのは、タバコのフィルターが15個もあったことです。(たった1m四方の中にタバコ15本のゴミなんて、まるで灰皿をぶちまけたみたい)
細長い緑色の欠片も目立ちました。これはおそらく人工芝ではないでしょうか。

調べた結果、想像以上に砂の中までプラスチックゴミで汚れていることがわかりました。

砂とプラゴミを分ける「フルイ」の考察

砂の中に入り込んでいるプラスチックゴミを取り出すには、フルイにかけて砂を落とすのが効率的だと考えます。砂の粒子が通る穴の大きさはどのくらいなのか、家にある3種類のザルで考察してみました。
①網目が1mm以下の細かいザル
②網目が1.5mm程度のザル
③幅が1.5mm長さ10~30mmのスリット状に穴があいているザル

結果
①はザルの目が細かすぎて、大きめの砂粒が多く残ってしまいました。
②ほとんどの砂粒は下に落ちました。1.5mm以上のプラスチック欠片は、ほぼ取れています。
③砂粒はしっかり下に落ちますが、比較的大きなプラスチックの欠片も落ちてしまいました。
→②の1.5mm程度の穴が良いとわかりました。

外形のモデリング

Fusion360でモデリングを行いました。

粘土で大きさや形の検討

どんな形や大きさが使いやすいのか、陶芸用の粘土でざっくりと作り、検討しました。
・砂をすくって振るう行為が一連の作業でできること
・片手でしっかりと持てること
この2つを念頭に形を考えていきました。

穴のテスト

3つのザルのテストから、穴の大きさは約1.5mm程度がちょうど良いことがわかっていました。そこで3Dモデリングで細かい穴がどのくらいの精度で出力できるのか、テストすることにしました。
1.5mmの穴と2mmの穴のデータを出力し、比べてみました。
穴の配置は狭い面積に一番多く穴を開けることができるハニカム構造のように、6角形に並べて穴を開けました。

テストの結果

テストの結果、モデリングしたデータよりも若干穴が小さく出力されていることに気づきました。
2mmのデータ→約1.5mmの穴
1.5mmのデータ→約1mmの穴
になっていました。
実際に砂を振るってみたところ約1mmの穴は砂が抜けずに残ってしまったのに対して、約1.5mmの穴は砂がスムーズに抜けました。

このテスト結果から、穴の大きさは2mmでモデリングしていくことにしました。

すなふるv1

粘土での試作から、砂をすくって振るう動作が簡単にできるような形状のモデリングをしました。
穴は底面と側面の両方に開けて砂が抜けやすいようにし、底面には安定させるために机に置いたときに足になる部分(高台)を作りました。
高さは使用した3DプリンターAdventurer3の最大造形サイズの150mmで作成しました。

出力結果

高台と取手の部分にサポートをつけ、出力したところ、サポートによって底面の穴が埋まってしまい、取手の部分もうまくサポートがつかず、フィラメントが垂れてしまいました。
念のためサポートなしでも出力してみたところ、案の定フィラメントが垂れてしまい、失敗してしまいました。

すなふるv2

すなふるv1で採用していた高台はご飯茶碗のように机の上に置いて使うものでもないため必要性が低いと考え、不採用にしました。
取手の上の面を平面から曲面に変更し、サポートがなくても出力できるかどうか試しました。

出力結果

底面はしっかりと穴がある状態で出力されました。しかし、取手の部分はフィラメントが垂れてしまい、またもや失敗でした。

すなふるv3 〜サポートがつきやすい形を考える〜

3Dプリンターのベッドからではなく、物体の上からサポートを作るとサポートがうまく出力されないため、底面の形をもう一度考え直しました。
底面を取手の下の部分をなくすことで、サポートがちゃんと出力されると考えました。

すなふるv3 〜サポートがつきやすい形を考える2〜

上記のように、取手の下の部分をなくす案を考えたのですがこの案は物体が構造的に脆くなる可能性があり、プラスチックを回収するための物が壊れてかえってプラスチック破片を出してしまうことは絶対に避けなければならないことだと思ったので底面をイチョウの葉と似た形にし、強度を上げました。

出力結果

前と比べるとサポートが出力されてはいたのですが、一部分がうまく出力されておらず、仕上がりはきれいとは言えない状況になってしまいました。

すなふるv4 〜サポートが必要ない構造を考える〜

これまでのTry and Errorから、サポートが必要ない構造を考えることにしました。
インターネットでサポートが必要ない角度を調べてみたところ、45°まではサポートなしで出力することができるという情報を手に入れました。
参考文献
この情報をもとにサポートの必要ない取手の形を作りました。

すなふるv4 ~サポートなしのテスト~

サポートなしで出力できるかどうかテストを行いました。
底面から出力するとフィラメントがもったいないため物体をカットして部分的にテストを行いました。

出力結果

テストは成功で、サポートなしで出力することができました。
仕上がりもきれいでフィラメント が垂れていることもありませんでした。

すなふるv4 出力

テストに成功したモデリングの出力をしました。
海の砂浜で使うことを前提としているため、
  1. 落としたり、置き忘れて紛失することのないように見つけやすい目立つ色
  2. 砂をふるった後のプラスチック欠片が見やすい色
この2つを考えた結果、クリアオレンジを選択しました。

完成!!!

フィラメントが垂れることもなくきれいに出力することができました。

すなふる.stl

最後に


最高の具現化装置

「すなふる」を制作するときに、砂を振るうための細かい穴の成形、金属製のザルの成形など素人が簡単にできるものではありません。
それを3Dプリンターは可能にする力を持っています。
「こんなものがあったら便利」という考えを具現化できるのは、素晴らしいことだと思います。

道具が影響をあたえる

道具ひとつあるだけで、今までできなかったことができたり、気づかなかったことに気づいたりすることがあると思います。
その道具で、人の考えや行動に変化が起こるのかもしれません。
「すなふる」がきっかけとなって、多くの人がもっと、砂浜のプラスチックゴミについて考えてもらえるようになるといいなと思っています。

今後の方針

今回はPLAで制作しましたが、耐久性のことなどを把握するために今後は実験的に使いつつ、別の樹脂素材でも制作してみる必要があると考えています。
海岸清掃のボランティアが活動しているため「すなふる」を持参して参加し、他の人にも「すなふる 」を使用してもらってフィードバックを頂き、改良を重ねて行きたいと考えています。
ボランティアでの活動も後日レポートにして報告します!

海岸清掃ボランティアレポート

すなふるで海岸清掃ボランティアをしてきました。
かながわ美化財団様からゴミ袋を支給していただきました。
今回は個人での参加でしたが、実際に使用してみることでいろいろなことがわかりました。
レポート

すなふる改良版

使用してみてわかった改善点を解決する新しいすなふるのページ
すなふる改良版