- 岐阜県飛騨市にあるFabcafeHidaのすぐ近くに私は住んでいます。おいしいコーヒーを飲みにカフェはよく訪れているのですが、Fabの機器を使ったことはほとんどなく、3Dプリンターのことは全くわかりませんでした。これまでに2次元のデータは作ったことがあるけれど、立体のデータはどうやって作るんだろう?と興味があり、「FAB 3D CONTEST2018」のワークショップに参加することにしました。
- 事前にFabcafeスタッフからもらった課題は「暮らしの中で改善したいことと、その解決策」。解決したいことってなんだろう。Fabで解決できることってなんだろう。あれこれと紙に落書きをしながら考えていて、ふと浮かんできたのは、私が小学生の頃の「お困りごと」でした。
- 小学校1年生の私はポケットに小さな石を入れて学校に行っていました。好きでも嫌いでもない学校と厳しい両親のいる家で、私は人生を悲観して生きていました。そんな中で希望だったのは、夏休みに会えるおばあちゃんのこと。おばあちゃんの家から戻る日にはいつも小さな石を拾って持って帰りました。それはまたここに戻れる約束のような、勇気を与えてくれるような存在、「こころのおまもり」でした。そんな子は私だけ?と思っていましたが、絵本の中にときどき出てくるのです。かばんにくまのぬいぐるみを入れている子、ポケットに赤いらいおんを入れている子、みんなそこから勇気をもらい強くなっていくのでした。ラチとらいおん
- 幼い私がポケットに石を入れて登校するのは簡単ではありませんでした。先生や友達に見つからないようにしなきゃいけないし、洗濯の前に取り出さなきゃお母さんに見つかってしまう。その頃の私に宝物を安心して入れられるものを作ってあげたいなと思いました。私の息子が通う小学校では、おもちゃや私物を持って行くことは禁止です。でも、そういえば「ランドセルにキーホルダーをつけるのは禁止だが、お守りは可」というルールがあったな、と思い出しました。じゃあ、お守りの形をした入れ物をつくればいいんじゃないかな?と思いつきました。
- こんな素人のアイデアで大丈夫なんだろうか・・・とドキドキしながら、ワークショップ当日にこの案を発表しました。先生方はデザインや技術に関わるプロの方ばかり。だけど皆さんオープンマインドをお持ちの方で、おもしろがってくださり、コンセプトにも造形的なことにも、アイデアをたくさんいただきました。Fabの世界って自由なんだなと、その広がった感覚を心地よく感じました。これでいいんだなと、この案を進めていくことにしました。
小学生のための「こころのおまもり」
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小学生のための「こころのおまもり」 by iammiki is licensed under the Creative Commons - Attribution-NonCommercial license.
Summary
FAB3D CONTEST 2018 : カテゴリー2
「これがあれば元気がでる、勇気がわく」という自分だけの小さな宝物を、誰にもバレずにこっそり小学校へ持っていくためのお守り型の入れ物です。心に大切なものを持っている子ども達をそっと応援します。
「これがあれば元気がでる、勇気がわく」という自分だけの小さな宝物を、誰にもバレずにこっそり小学校へ持っていくためのお守り型の入れ物です。心に大切なものを持っている子ども達をそっと応援します。
Materials
Tools
Blueprints
Making
- ワークショップの後半は、粘土を使って形を作っていきました。自分の造形力のなさに愕然としつつ、3Dプリントできる形を探っていきます。当初、おまもりの上の辺が山型に外れて物を出し入れする形を考えていましたが、強度や作りやすさの面でアドバイスをいただき、箱の蓋のような形状に変更することにしました。粘土
- 粘土で試行錯誤しているうちに「あれ?お守りって何だったっけ?」と見失いそうになりました。図書館で借りてきたお守りの本を見ると、お守りも実に多様化しており、いろんな形があるようです。情報を整理して、お守りをお守り足らしめる要素は以下の2つではないかと思いました。
- リボンのような紐飾りがついていること
- 「御守」と書いてあること
逆にいえば、その2点さえ押さえていれば、お守りとして成立するだろうと考えました。お守りの本 - リボンのような紐飾りがついていること
- ワークショップ中には形を決めきれなかったので、新たに模型をつくることにしました。既存の紙の箱を求めて選んだのは懐かしの「アポロ」と「チョコボール」。ランドセルにつけるバランスも考え「チョコボール」を採用し、お守り型に整形しました。外側に紐を通す「印籠型」はどうか?と、いただいた意見を採用させてもらって、ストローを取り付け、紐を通してみました。蓋が外れにくく、子どもでも物の出し入れがしやすく使いやすそうです。この形とサイズで3Dモデリングしてみることにしました。紙の箱
- いよいよ3Dモデリングをする段階になりました。ワークショップ2日目はfusion360講習があったのですが、残念ながら私は欠席(息子の運動会)でした。地元の高校の美術の先生が参加されており、なんと私の案をモデリングしてくださっていました。そのデータを参照させていただき、当日の資料やyoutube講座で勉強し、またFabcafeHidaにて随時相談しながら、少しずつ操作を覚えました。しかし、なんと難しいのでしょう・・・技術を学びたいと思っていたずなのに。何度も失敗を繰り返しました。
- fusion360に敗れ、一度気力が途切れると「もうお守りつくらなくてもいいかなー」などと考え、他のことに忙しく過ごしていたのですが、ある日、息子とともに「カミオカロボットフェス」に遊びに行ったことが転機となりました。二足歩行のロボットがリング上で戦うイベントに、飛騨神岡高校ロボット部が参加していました。当部は技術力の高さで地元でも有名で、私がまじまじとロボットを眺めていると顧問の先生が解説をしてくれました。なんと殆どのロボットのパーツは、fusion360で設計し、学校の3Dプリンターでつくっているのだと。先生はスマートフォンでパーツの3Dデータを見せてくださいました。
- しかも、フローが確立しているとのことでした。生徒が自宅でモデリングをする→先生にデータを送る→先生が自宅でチェック→朝、学校で3Dプリント開始→部活の時間にはパーツが仕上がっている。地元の高校で3Dプリンターを使いこなし、つくりたいものをつくっている人たちがいるという事実に、やっぱりやってみようかな、という気持ちが戻ってきました。特別な訓練を積んだデザイナーや職人でなくても、つくりたい気持ちがあれば何でもつくれる、そんな時代なのかも、と思ったのでした。
- FabcafeHidaに缶詰し、スタッフの堀之内里奈さんにヘルプを求めながら、なんとかデータが完成しました。まずはミニ版でテストプリントをしてもらい、いよいよ原寸大をプリントしてもらいました。初めて3Dの自作コンテンツを手にした感動といったらありませんでした。「グリコのおまけぐらいクオリティが高いね」と言ったら「それ以上ですよ」と堀之内さんはキュートな笑顔でにっこりとしてくれました。3Dプリンター
- 紐を通したけれど、上下のジョイント部分がしっかりと留まらず、カタカタと音がなる状態でした。私のモデリング技術不足により、少しゆるめに設計していたためです。紐でしっかり留まる予定だったのですが・・・。1mm程度の隙間ができている計算でしたので、マスキングテープを2周ほど巻いてみたら(黄色の部分です)安定感が増しました。こんなことしていいのかしら、と思いましたが、食材にこだわって最高のお料理をつくるシェフがプロのデザイナーさんに該当するとしたら、Fabで身近なことを解決しようとするのは、冷蔵庫にあるものでなんとかする主婦のようなものでは?と言い訳をし、一旦これでよし、ということにしました。
- 1年生の息子に商品テスト(?)をしてもらうことにしました。中に入れたのは、息子のオリジナルキャラクター「ねこむしぶるどーざー」です。木とカラーテープでできています。お守りとしてではなく、友達へのプレゼントをこっそり入れたいそうです。それ使い方ちがうんだけどなあ・・・と思いましたが、今の彼には「こころのおまもり」が必要ないのでしょうね。さあ、先生にも友達にも咎められずに学校に行って帰ってこられるのか、ドキドキして待ちます。
- 息子が学校から帰ってきました。二重叶結びがちぎれそうになっており、今日一日のお守りの受難が感じられましたが、先生にも友達にも何も言われることなかったそうです。何もないことが、このテストの成功です。よかった!「こころのおまもり」無事にデビューを果たしました。
- 粘土や紙の箱、3Dモデリングの段階では「ちゃんとお守りらしくなるのだろうか?」と心配でしたが、完成したものは、ランドセルにつけても違和感がなく良かったです。当初は、紐飾りも3Dプリントする案でしたが、リアルな紐にしたことで異素材とのバランスもおもしろくなりました。
- ランドセルに付けてみてわかったことは、プラスチックが思ったよりもガチャガチャと音が立ててしまうことでした。動きの多い小学生は、ランドセルをていねいには扱わないので、あちこちにお守りをぶつけてしまい音が発生します。3Dプリントできるゴム製の素材があるそうで、素材を見直すのも一手かもしれません。また前述のジョイント部分もマスキングテープではないスマートな解決法を考えたいものです。宝物はこっそり持っていたいので、目立ってしまう要素はなくして、子ども達が安心して使えるように改良していきたいです。
- どこまでもお守りらしさを追求するなら、3Dプリンターで構造体を作り、和布を縫い付けたり貼ったりするのもおもしろそうです。外側が布なら音問題も解決できるかもしれません。形を球体にすると、巾着型のお守りもできそうです。今回は3Dプリンターでしたが、他の技術・素材でどのようなものができるか、また「大人のこころのおまもり」をつくるなら、どうなるんだろうか? まだまだ楽しめそうです。
- お守りをつくることで人の流れや、心の動きが生まれ、気づけたことがありました。まず、解決を待つ問題にはすくい上げるべき微細な感覚が存在しているということ。ワークショップのときにご指摘いただいた「大切なのは最初のその気持ち」という言葉が心に残っています。気持ちに寄り添う形というものを、改めて模索したいと思いました。次に、Fabがクリエイティブを身近なものにしてくれていると知ったこと。私は形をつくるということが不得手でしたが、たくさんの方にヒントをいただきながら、形にしていく過程が楽しかったです。コンテストをきっかけに、また広がりがあると楽しいなと思います。
References
Usages
小学生のための「こころのおまもり」のつかいかた
これは、きみのたいせつなものを、だれにもしられずに学校にもっていくための「おまもり」です。これがあれば、げんきがでる、ゆうきがでる、とおもうものをいれてください。
・いれていいものは、かみ(てがみやカード)、ぬの、リボン、石、木、はっぱ、どんぐりなど
・いれてはいけないものは、お金やきちょうひん、たべもの、いきもの、あぶないもの、とがったもの
・「おまもり」は学校ではあけないようにしよう。だれかが中のものをさわったり、さわぎになったりしないように、じぶんだけのひみつをまもろう。
・中にいれたものが音をたてるときは、ティッシュなどをいれて、音がならないようにくふうしてみよう。
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