海外連携プロジェクト”マレーシアで3Dプリンターを使って「延長ブレーキレバー」を作る"

Created Date: 2025-09-01/ updated date: 2025-09-01
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    Summary
    Title:『海外連携プロジェクト”マレーシアで3Dプリンターを使って「延長ブレーキレバー」を作る"』
    For whom:マレーシアの高齢者施設に在住する車椅子で生活する入居者。
    Project Member:スタッフ構成と役割
     1.理学療法士(JICA海外協力隊):障がい者の動作分析、機能障害の評価、自助具の必要性判断、改良提案。
     2.現地理学療法士(Rumah Ehsan Kuala Kubu Bharu):障がい者の動作分析、機能障害の評価、自助具の必要性判断、改良提案。マレー系マレーシア人。
     3.3Dプリンター専門家(Invicus Horizon Hill’s Fablab: IHH Fablab):自助具の設計、STLファイル作成、3Dプリンターによる試作。中華系マレーシア人。
    Why:
    車椅子利用者の中には、ブレーキレバーの長さが短いために、自力で操作することが難しい方がいる。移動のたびに介助者の手助けを必要とするため、移動が制限されている。この状況を改善し、ユーザーが自身で自立してブレーキ操作を可能にすることで移動の自由度を高めるために、ブレーキレバーを延長する自助具の開発を開始した。また、マレーシアでは、リハビリ業界において3Dプリンターを活用した自助具の開発がまだ一般的ではない。この取り組みを通じて、新しい支援の形を広めることを目指している。
    How:STLファイル使用してVer. 3まで創作した。詳細の手順はRecipeに記載する。
    Outcome:
    1.ユーザーの生活への影響
    この自助具は、車椅子利用者の自立した移動を促進し、介助の必要性を減らすことを目的としている。ブレーキレバーの延長とハンドルの角度調整によって、より負担の少ない操作を実現し、移動の自由度と生活の質を向上させる。この改善により、ユーザーが自信を持ち、積極的にイスラム教の集団お祈りなどの活動に参加することに導くことができる。
    2.日本とマレーシアの協力
    このプロジェクトは、日本のJICA海外協力隊、マレーシアの理学療法士、3Dプリンター専門家の協力によって進められている。特にJICAの隊員は任期満了後、日本に帰国するが、マレーシアにおける障害者支援は現地の人々が担う必要がある。この取り組みが、3Dプリンター技術を活用した障害者支援の発展につながることを願っている。

    Materials

      Tools

        Blueprints

          Making

          • 2024年6~8月 JICA海外協力隊・理学療法士隊員(以下、『隊員』)が配属先の高齢者施設にて障害を持つ入居者の機能・能力に応じた自助具が不足していることを課題であると認識した。入居者は皆、経済的自立困難であり、身寄りが無いという背景もあり自身で購入することができない。その後、隊員が現地理学療法士(以下、『現地PT』)に共に自助具を作成することを提案しプロジェクトが始動した。
            • 全体像:
              70歳代男性。パーキンソン病を患っており、ベッド、または車椅子で生活している。1日の中で5時間ほど車椅子に乗車して入浴、トイレ、イスラム教のイベントの参加などを行っている。
              課題発見に繋がる背景:
              生活動作の中で車いすブレーキをせずに動作を行う様子が散見された。ベッド‐車椅子間の移乗、立ち上がり、トイレ⁻車椅子間の移乗が主に課題が見られる状況である。
            • 要因:
              1.パーキンソン病による筋力低下とバラン能力低下、安静時振戦。
              2.車椅子の既存ブレーキレバーの長さが短く、ブレーキ操作時に強いトルクを必要とする。健常者なら可能だが、筋力低下がある者では労作を強いることになる。
              3.車椅子の既存ブレーキレバーの形が小さく高齢者には目視や触知で見つけづらい。 これらの要因により対象者は入居生活の中で不便を感じていながらも生活のため致し方なくブレーキをかけずに動作を行っていた。
          • 2024年9月 隊員がJICA海外協力隊技術顧問(以下、技術顧問)に3Dプリンターを使用した自助具作成について相談した。技術顧問から日本の3Dプリンター専門家、さらにマレーシアの3Dプリンターラボ”Invicus Horizon Hill’s Fablab(short form: IHH Fablab)”の3Dプリンター専門家(以下、『専門家』)を紹介された。彼を加えた3名でチームを作りプロジェクトが本格始動することが決まった。
            • 2024年9月 隊員と現地PTが、入居者の機能・能力障害を評価し、『ブレーキレバーの延長』が有効であると判断した。
            • 今回の課題に際し、当初身近なもの、例えばラップやトイレットペーパーの芯を使用して『ブレーキレバーの延長』するアイデアを隊員と現地PTは考案し実行した。しかしながら、紙素材であるため、『強いトルクに耐えられないこと』、『車椅子乗車のまま入浴する高齢者施設では水に濡れてしまうこと』これらにより直ぐに壊れてしまっていた。これらがあり紙素材案は失敗に終わった。その様な過去から代替え案を模索していた。
            • 隊員がマレーシア渡航前にJICAグローカルプログラムという3か月研修を受けた際に、熊本県球磨郡多良木町で小学生向けに「3Dプリンターで作品つくりワークショップ」を開催した経験があり、3Dプリンターを自助具に応用できないかと考えた。他のニーズと比較して3Dプリンターを使用してブレーキレバーを作成することが最も効果的であると判断した。
              これらの一連の課題発見から失敗経験の経緯を隊員と現地PTから専門家へ伝え、3Dプリンターの使用が必要性をチームで確認した。
            • 2024年9月 専門家は自助具作成に3Dプリンターを使用することは今回が初めてであった。そのため隊員から専門家にマレーシアの今後のこの分野におけるニーズと今回のプロジェクトについての見通しを確認した。 先ずは完成イメージ像の目線を揃えるためにCOCRE HUB の「ブレーキ延長レバー」を共有しそこから対話を深めていくこととした。https://cocrehub.com/dl/1e2505/s/045060/r/Bgq3CpVnS7ac4RCRa8eGaA

            • 今回の特徴である海外連携における難しさや苦労と工夫を共有する。
              苦労:
              1.物理的距離
               隊員と現地PTはスランゴール州クアラクブバルにおり、専門家はそこから400km離れたジョホールバルにいる。
              2.言語的障壁
               第一言語は隊員は日本語、現地PTはマレー語、専門家は中国語である。連絡を取るためには英語を使用することが求められた。
              工夫:
              これらの苦労に際し、SNS”WhatsApp"の中でグループを作成し、写真や動画を編集して認識の齟齬が生まれない様に努めた。
          • 2024年9~10月 専門家から隊員・現地PT車椅子の既存ブレーキレバーサイズの採寸を依頼。採寸結果を共有した後、専門家がデザイン設計。
          • 2024年12月 長さを延長した試作品Ver.1が完成。専門家から施設へ郵送。
            • 2025年1~2月 隊員・現地PTが入居者に対して試作品Ver.1の評価を実施。車椅子のブレーキをかけた時にレバーが遠くなってしまうため、体を過度に前傾姿勢にしなければならなくなる課題があった。隊員・現地PTから専門家へ持ち手に角度を付けたデザインができるか提案。専門家が再デザインを設計。
          • 2025年3~4月 延長ブレーキレバーVer.2が完成。専門家が施設へ郵送。隊員・現地PTが 入居者に対してデバイスの評価を実施。持ち手が太く入居者が握りづらいという課題があった。また、他の入居者も延長ブレーキレバーが負担軽減になるであろうと推測した。
            • 隊員・現地PTの評価によりレバーを操作するための持ち手(把持)部分の周径が太く入居者が操作しづらいことが分かった。専門家へ「①レバー持ち手2ヶ所の周径をさらに小さくすること」、「②他の車椅子にも適合するように接続部分の汎用化」を盛り込んだデザインを提案した。
            • ”ポジティブな変化”
              ブレーキレバーの柄が長くなったことにより体幹部を前後させることなくブレーキ操作を行える。全体的に以前よりも遥かに使用感は向上した。
          • 2025年8月 専門家からの報告。軸とレバーを分けて、2個のパーツにすることで様々なタイプのブレーキに装着できるデザインするアイデアが隊員と現地PTへ提出された。
            • パーツを分離することで、将来的な改良やリミックスの際に、グリップ部分または筒状部分のどちらかに集中して変更を加えることができ、市場にある様々なタイプの車椅子ブレーキへの迅速な適応や、特定のユーザーのニーズに合わせたカスタマイズが可能になる。2パーツ構造の欠点としては、1パーツ構造に比べて強度や剛性が劣る点があるが、プリント方向の最適化や強力な接着剤による接合で補うことができる。
          • さらに専門家よりネジ(スクリュー)を使用せずに結束バンドを使用するアイデアが提出された。以前よりも簡易的かつ頑丈に車椅子に固定できるようになった。
            • 既存レバーに差し込む筒状の部分は、既存レバーより少し大きめに設計し、緩めのフィット感にした。上下の動きを防ぐために結束バンドを2本使用し、捻れを防ぐために2ピース構造の底部キャップを使っている。この設計は、筒状部分のサイズを調整することで、様々な形状のブレーキレバーに柔軟に対応できる。
            • プロトタイプにはPLAフィラメントを使用し、最終版には耐衝撃性が高いPETGフィラメントを使用した。将来的には、グリップ表面に強くて耐摩耗性が高いTPUフィラメントの使用も検討する。
          • 2025年8月 専門家より提供された『延長ブレーキレバー Ver. 3』のSTLファイルを一般公開する。
          • COCRE HUBでは、我々も参考にしたブレーキ延長レバーが公開されており、現場においても入居者のニーズに応じて、レバーの短さが課題として浮上している。では、なぜ長いブレーキレバーを備えた車椅子が設計されないのか――この点は再考に値する。 現在普及している車椅子のブレーキレバーは主に3種類があり、「トグル式」が一般的である。これは上肢の筋力が弱い高齢者に適しているとされている。しかし実際には多くの高齢者が労作を覚えており、必ずしも使い易いとは言い切れない。 この使用者の声に対して、エンジニアがどのような認識を持っているのか――それ自体が一つの重要な議論点となるだろう。
          • 2024年11月 専門家から隊員・現地PTへ既存ブレーキレバーの詳細を把握するためにレバーの実物を郵送依頼。実物郵送後、専門家がデザイン設計を継続。
            • 2024年11月 試作品Ver.1デザインが完成。専門家から隊員・現地PTへ写真を共有。隊員・現地PTが写真を確認し、専門家へレバーの長さを15㎝からさらに延長することを提案。その後専門家が長さ21㎝で再デザイン設計をした。
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            Usages

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