断端部分を保護し、心地よく野菜がカットできる自助具

Created Date: 2023-07-07/ updated date: 2023-09-17
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License
Summary
左前腕切断事故にあった料理好きなケンちゃん。断端部分を安全に、そして衛生的に調理を楽しめるように自助具を開発しました。ケンちゃんの夢を応援する自助具づくりの記録でもあります。
[制作環境]
・PC : MacBook Air (M1, 2020)
・3D MODELING : Blender Version 3.2.2
・3D SCANNER : WIDAR
・3D PRINTER : Anycubic Mega-S
・Slicer : Ultimaker Cure
・工作道具いろいろ

Materials

    Tools

      Blueprints

        Making

        • [Title]
          断端部分を保護し、心地よく野菜がカットできる自助具。

          [For whom]
          左前腕切断事故に遭われたケンちゃんや、同じような障害を抱えていらっしゃる料理が好きな方々に。

          [Why]
          断端部分が裸のママで包丁を使用している状況を見かけて。心地よく料理ができる環境を提供したい。

          [How]
          約2ヶ月。5つのプロトタイプ、3回のフィッティング。迷走しながらも楽しかったこの道のり。誰かのヒントに繋がれば。

          [Outcome]
          障害によって我慢を強いられた料理への想いに、「好きだったあの料理を作ってみたい」「飲食店をひらいてみたい」など、「やってみたい!」や「できるかも!」の気持ちが沸き起こる。
          • 仕事中に左前腕切断の事故に遭われた小野さんは料理好き。小野さんには小料理屋を経営したい夢がある。小野さんのことは親しみをこめて 「ケンちゃん」と呼んでいます。
            2023年5月に開催されたファブリカリウム2023で出会ったケンちゃんたちと6月に西新宿のレンタルスペースで餃子パーティーを開催。後日、写真を眺め気になることがあった。

            • パーティー当日は、餃子やパスタ、卵焼きなどたくさん調理してくれたケンちゃん。とても器用にキャベツを刻むケンちゃんの写真を見た際に、「あれ、これって危なくないのかな?」と思ったのが開発のきかっけ。
              包丁さばきの基本に「猫の手」があるが、左手を事故にあわれたケンちゃんは「猫の手」ができない。元料理人ということもあって、料理が上手なケンちゃんですが、より安心して調理できる環境を提供してあげたい。そう思いました。
              • ※グループチャットでのやり取りから抜粋 

                • 宇都宮
                  『こんな手のカバーがあったらどうかな?と思ったのでメモを送ります。包丁で誤って怪我をしてしまうことを防止したり、汚れを防ぎ腕を清潔に保つ目的で。メッシュ素材でできたら水洗いした際にすぐに乾いて良いかな?なんて。下部にはスパイクがついていて、しっかり対象物を保持できるとかどうでしょうかね?』
                   ↓
                  ケンちゃん
                  『アームカバーは魅力的かも。衛生面やニオイ、肌荒れ防止にもよきですなぁ』

                • ケンちゃん
                  『(包丁を扱う際)グーの形にしたときの第二関節の「とんがり」が包丁との接地面は少ないけど実は結構重要だったりします』
                   ↓
                  宇都宮
                  『第一関節と第二関節の間をスライドさせるように切りますよね』
                • 宇都宮
                  『たしか「猫の手で切りなさい!」なんて学校で習った気がします。スムーズに包丁を動かすには、カバーと包丁が触れる面は少ない方がいいですよね?』
                   ↓
                  ケンちゃん
                  『流石っすね』

                  おぼろげなイメージで投げたメッセージだったけれども、ケンちゃんと考えを共有ができたことからニーズがあると判断。そしてこの活動をきっかけとして、ケンちゃんの夢が前進する力になれたらと開発を決意する。


              • 普段のケンちゃんは電動義手や、アタッチメントを取り付けられるソケットを使用している。ただ、濡れたり汚れる作業には向かない。既存の義手やソケットにはない、シンプルな構造で濡れても大丈夫、食品に触れても大丈夫な断端部をカバーする器具開発を行いたい。

                [開発の留意点]
                ・衛生的であること、洗うことができること
                ・食品に触れても大丈夫な素材であること
                ・装着が簡単で有ること
                ・丈夫であること、壊れたときにリペアし易いこと
                ・台所に置いても馴染むデザインであること
                • 器具のデザインを開始させるため、断端部の情報が必要。ケンちゃんに西新宿にあるレンタル会議室に来てもらい、WIDARで左腕のスキャンをおこなう。WIDARはスマートフォンを使った3Dスキャナーアプリケーション。簡単な操作で3D化させることができる。切断された左腕をさまざまな角度からおよそ40枚撮影。撮影後、数分で3D化されたデータが生成された。
                  • 制作フローとして、3D化したデータをBlenderにインポートさせる予定。それにはスキャン作業をする時点で、ケンちゃんの腕にいつくか目印を仕込んでおく必要がある。

                    ※実際にスキャンしたデータはブラウザ上で確認可能。
                    >ケンちゃん 230630 ※外部リンク先


                  • 腕の向きがわかりにくい。[腕の上面を示す箇所に赤のシール]を、[腕の下面を示す箇所に青のシール]を貼る。また今回の作業ではあまり必要がないが、[いつも使用しているソケットを引っ掛けて固定している箇所]に黄色のシールを、[いつも使用しているソケットを装着した際、露出している箇所]に緑のシールも貼り付けた。
                • 3Dデータ制作・モデリング作業はBlenderへ取り込んでおこなう。BlenderへはWIDARからOBJ形式でエクスポートしたものを使う。アバウトな大きさの数値になっている3Dデータを、腕に貼り付けていたメジャーのメモリを目印にスケール値を拡縮して調整した。また同時に丸シールで向きも整えた。
                  • 頭の中のアイデアを具現化していくには、実際に手に取れる形にすると進めやすい。スキャンをしたデータには肘まであるが、デザインを必要とする前腕部まで出力した。

                    [左前腕部 3Dプリンター パラメーター]
                    • 材質:PLA(133g 44.47m)
                    • 時間:8時間37分
                    • サイズ:86.8 x 94.5 x 153
                    • 解像度:Draft 0.3mm
                    • インフィル:10%
                    • サポート:有り
                    • インフィルパターン:ジャイロイド

                    • 出力した左前腕部の模型をさまざまな角度から眺めつつ、「スリップオンシューズ」「安全靴」「リカバリーサンダル」「風呂敷」「テーピングの巻き方」など、「包む」や「守る」「気軽」などに繋がる優しいキーワードでアイデアを練る。出力した断端部にマスキングテープなども貼り付けながらイメージを整理し、モデリングを進めていった。
                      • 初回プロトタイプの特徴
                        ◯持ち運びが簡単になるように小さいサイズで。
                        ◯お猪口のような形状で、腕への装着はゴムの伸縮を利用する。輪ゴムであれば洗える素材だし、切れたとしても安価に取り替えが可能。
                        ◯底面にある円柱イボが滑り止めに(2mm程度)

                        [初回プロトタイプ 3Dプリンター パラメーター]
                        • 材質:PLA(18g 5.98m)
                        • 時間:2時間2分
                        • サイズ:65.5 x 58.9 x 48.1
                        • 解像度:Draft 0.3mm
                        • インフィル:10%
                        • サポート:有り
                        • インフィルパターン:ジャイロイド
                        • ◯ゴム1本の伸縮だと弱く、前に抜け落ちてしまう。
                          ◯輪ゴムの取り付け位置を検討できるようにしたい。
                          ◯イボが小さすぎて、欠けやすいのでは? 折れたものが食品に混入してしまう可能性がある。
                      • 2回目プロトタイプの特徴
                        ◯ゴムの取り付け位置を検討できるように、穴を増やす。
                        ◯ゴムの本数を増やす。
                        ◯ゴムの伸縮を利用したベルト状の物で腕に装着する。
                         腕へのゴムの食い込みを防ぎつつ、腕への密着感を高める (20mmx80mm程度のベルト)。
                        ◯底面のイボから肉たたきハンマーのようなブロック状のものに変更する。

                        [2回目プロトタイプ 3Dプリンター パラメーター]
                        • 材質:PLA(16g 5.52m)
                        • 時間:1時間46分
                        • サイズ:57.6 x 57.5 x 44.8
                        • 解像度:Draft 0.3mm
                        • インフィル:10%
                        • サポート:有り
                        • インフィルパターン:ジャイロイド
                        • ◯密着度が高まった分、腕への装着に一工夫が欲しい。片手でも装着できるようにしたい。
                          ◯肉たたきハンマーのようなブロックは細かすぎるのではないか? 細かい溝に入った汚れの掃除が大変になりそうだ。
                      • 3回目プロトタイプの特徴
                        ◯ゴムの取り付け位置は最前方と最後方の穴で行う。
                        ◯ベルトを前方に倒し、突起に引っ掛けることができる。装着が片手でもできるように。
                        ◯底面の造形はシンプルに。
                        ◯器具の形状に少し面白さを。熊のようなフォルムだとかわいいのでは?

                        [3回目プロトタイプ 3Dプリンター パラメーター]
                        • 材質:PLA(17g 5.79m)
                        • 時間:1時間44分
                        • サイズ:57 x 57.7 x 44.0
                        • 解像度:Draft 0.3mm
                        • インフィル:10%
                        • サポート:有り
                        • インフィルパターン:ジャイロイド
                        • 初回フィッティングに向けて形が整った。構成しているパーツは手芸用品専門店やホームセンターで簡単にそろえられるものを使っている。

                          [3回目プロトタイプ パーツ構成]
                          ・3回目プロトタイプ(PLA出力)
                          ・太さ4mmぐらいの紐ゴム
                          ・コードストッパー
                          ・5mm厚のポリエチレンフォーム(ベルト)
                          ・スポンジ
                      • これまでのプロトタイプでフィッティング。およそ40分間しっかりとフィードバックをいただくことができた。※音声なし。

                        大きな気付き
                        ◯前腕部がかなり柔らかい。
                        ◯ベルトを前方に倒す、器具の取り付けアイデアは悪くない。
                        ◯ベルト部分は複数、もしくは幅広が良いかも。
                        ◯包丁が当たる部分の修正が必要。背の低いペティナイフの場合も考える。
                        • ◯前腕部を握ると、断端部分が変形するくらい柔らかい。断端部分に包丁を直接あてるような「猫の手」は厳しいと再認識。
                          ◯柔らかいので、器具を装着して下に押し付けると、ベルトと腕部分に空間が生まれる。その空間になにかしらの詰め物は必要ない。
                          ◯装着時、フィット感はあっても強い締めつけ感はなくても大丈夫なようだ。現状は前腕部分へのフィット感があまりない。
                        • ◯カットするときは押さえる動作をするので、押さえる分ベルトがゆるくなる。
                          ◯複数、もしくは幅広の面ファスナー方式がいいかもしれない。
                          ◯クッションのスポンジはなくてもいいかもしれない。
                          ◯側面のあたり具合はちょうどよいかも。

                        • ◯断端の先は上から下ろす刃から守るような屋根が欲しい。
                          ◯壁は高さのない包丁(ペティナイフなどの)でもまっすぐ切れるよう、垂直ぎみにフラットな壁を作る。
                          ◯物をしっかり抑えて切る安心感が欲しい。底面部をスリッパのように肘付近まで伸ばしたほうがいいかも。底面が伸びる分、後方の穴は後ろに移動させてもよい
                          ◯底面部分にあまり細かな作りは必要ない。汚れがたまる原因になる。肉たたきほどのボツボツはいらない掃除の手間が有りそう。2山ぐらいので問題なさそう
                        • ◯肉用、魚用、野菜用 と使い分けられると良い。色、目印があればいいかも。
                          ◯黒ソケットはフライパンを使う作業で用いる。
                          切る等の仕込み作業では、[黒ソケットにアタッチメンとをつけるパターン]は考えづらい。
                      • 4回目プロトタイプの特徴
                        初回のお猪口型からポテトチップスのような形に。
                        ◯包丁の当たる面はペティナイフの使用も想定。
                        ◯面ファスナー2本。ある程度しっかりとしたフィット感に。
                        ◯器具の底面を肘に向けて延長。
                        ◯カット対象物の滑り止めとして、底面に三角の突起をつけて。
                        ◯肉用、魚用、野菜用と使い分けられるように目印を。

                        [4回目プロトタイプ 3Dプリンター パラメーター]
                        • 材質:PLA(61g 20.46m)
                        • 時間:5時間53分
                        • サイズ:95.7 x 128.4 x 72.0
                        • 解像度:Draft 0.3mm
                        • インフィル:10%
                        • サポート:有り
                        • インフィルパターン:ジャイロイド
                        • 大幅なモデリングのやり直しで不安があったが形になった。
                          フィット感も良さそうだ。
                      • これまでの3Dプリンターでの出力はプロトタイプということもあり、PLAで出力してきた。
                        この器具は食品に触れることを前提としているので食品衛生法にも対応しているPP(ポリプロピレン)フィラメントを用いて出力したい。初めてのマテリアルは緊張する。

                        国内トップ自動車メーカーや大手飲食チェーンなど幅広い企業様にお使いいただいております純国産3Dプリンタ用フィラメントです。高純度なこのフィラメントは、安心安全で高品質。 多数の3Dプリンタメーカーに採用されています。 食品衛生法にも対応しており、様々な用途でお使いいただけます。※引用

                        • 5回目プロトタイプの特徴
                          PPフィラメントを出力する際の注意点として、プラットフォームにPPのシートを貼り1層目を定着しやすくすること。出力してみての課題としては、「器具のたわみ」「文字が読めない」ことに気づく。別アイデアが必要。

                          [5回目プロトタイプ 3Dプリンター パラメーター]
                          • 材質:PP(58g 21.09m)
                          • 時間:6時間25分
                          • サイズ:95.7 x 128.4 x 72.0
                          • 解像度:Draft 0.3mm
                          • インフィル:10%
                          • サポート:有り
                          • インフィルパターン:グリッド
                          • 印刷温度:220℃
                          • ビルドプレート温度:70℃(PPシート貼り付け)
                          • たわみに対して
                            ◯包丁と触れる壁に対して垂直に小さなプレートを配置する。
                            ◯シンメトリーデザインの底面をランダム配置のデザインにすることで、さまざまな方向からの曲げに強くしたい。
                            >ランダム底面.svg ※Illustratorで制作
                          • 肉用、魚用、野菜用と使い分けられるように、区別する目的でエンボスでテキストを配置。がしかし読めない。PPが透明なので適さないのだと思う。このような本体自体に何かしらの加工施すのではなく、別方法を探したい。
                        • 2回目フィッティング。暑い夜の西新宿。リラックスした状態でフィードバックをもらえたらと考え、居酒屋に飛び込む。主に4つのポイントで確認。ビールを飲みつつ。プハーッ!

                          確認点
                          ◯ 全体のサイズ感
                          ◯ 器具のたわみ
                          ◯ 底面の突起
                          ◯ ベルトの装着のしやすさ



                          • 以前のプロトタイプに比べサイズアップしたことがポジティブに働いているとのこと。断端部だけでなく前腕も器具に載せることができ、スムーズにスライドさせながらカットの動作ができている。
                          • 器具のたわみが少しファジーに働いて、包丁でカットする際に良い働きをしているとのこと。なので壁を支えるプレートは不要。PPが持つ弾性の高さが良い具合に働いてくれているようだ。
                          • カット対象物の滑り止め機能としての突起。ランダム配置の必要はなく、シンメトリーデザインの底面のママがよいとのこと。好ましい器具のたわみにも繋がる。
                          • ケンちゃんは後ろのベルト穴を利用する形が良いとのこと。ただ側面それぞれに2箇所ベルト穴があることは良いとのことなので現状のママとしベルト穴は削除しない方向で。また、今回のフィッティングでは結束ベルトを用いているが、もう少し着脱のスムーズさは高めたい。

                        • 2回目のフィッティングでおよそ形状についてOKをもらうことができた。新しいマテリアルを使ったということもあり、ほっと一安心。でもそこで満足するのは早い。次なる課題としてこの自助具を手にする方々が「ポジティブな気持ちになれるように、もっと丁寧に考えてみよう」と設定した。料理が楽しくなるような見た目や強度、装着のしやすさを求め、コンテスト応募締め切りギリギリまでとにかくブラッシュアップを重ねたい。もっと良くなるはずと信じて。


                          • 結束ベルトに取り付けている黒いパーツはポリエチレンフォーム。装着を繰り返すとちぎれてくると思われる。本体と腕のフィット感を高める重要なパーツ。ここもPPで丈夫に。できる限り工作の手間を省きたい。

                            [ベルトパーツ 3Dプリンター パラメーター]
                            • 材質:PP(7g 2.42m)
                            • 時間:39分
                            • 本体サイズ:90mm x 70mm x 2mm
                            • ベルト用穴:W3mm × H26mm
                            • 解像度:Draft 0.3mm
                            • インフィル:10%
                            • サポート:なし
                            • インフィルパターン:グリッド
                            • 印刷温度:215℃
                            • ビルドプレート温度:60℃(PPシート貼り付け)
                            • 出力したママだとPPはまっすぐな状態。今回出力の厚みが薄い分、希望しない向きに反っている。これはPPの仕様のようでしょうがない。。。でも腕のカーブに沿うように曲げ加工を行いたい。PPで出力された物を輪ゴムで曲げた状態をキープさせつつ、80度のお湯につけて1時間ほど放置。ぬるくなったタイミングで取り上げてみるといい具合にカーブしてくれた。とても簡単だった。
                            • PPを腕のカーブに沿うように湾曲させたく、これまで装着時に力を使ってベルトを強く絞る必要があった。湯で形状を変更させることができたおかげで、結束ベルト以外のアイテムを用いることができそう。装着がよりシンプルに、そしてメンテナンスなども簡単になる。別素材の候補としては20〜25mm幅ぐらいの織ゴムを使ってみたい。ベルトのカラー展開がほどよく豊富で肉・魚・野菜の区別をつけることができる。

                              ただ、この点は使用者(ケンちゃん)の好みの部分もあると思うので、これまでの結束ベルト版と今回の織ゴム版は両方用意し、選択してもらえるようにしたい。
                          • コンテスト応募締め切り間近の25日の金曜日。おそらく最終の装着検証チャンス。ケンちゃんは今回も快くフィッティングの対応してくれた。本当にありがたい。最終仕様に近い形の出力と野菜をトートバッグに詰めて、夜の新宿に集合した。※音声あり、字幕あり。

                            実はケンちゃんに実際に野菜をカットしてもらうのは今日が初。もし「あー実際使ってみたら改善点いっぱいですね」なんてなったらどうしようかと考え少し緊張する。が、やるしかない。器具のたわみが本当にポジティブに機能しているのか、ベルトの装着のしやすさは改善されているのか、底面の突起が機能しているのか祈る気持ちで確認した。
                            • 通常の千切りと同じく、数枚キャベツの葉をまとめ器具の下に置く。ちょっとずつ左にずらしながら切るのではなく、切り始めは肘を上げ、壁の上部を使い切り、徐々に肘をおろしながら壁の下部を使い切り終える。この動作を繰り返して千切りを切り進める。トントントンと軽快な包丁の音が心地よく、本当に嬉しくなる。
                              PPフィラメントだからこそ生まれる「器具のたわみ」がポジティブに機能していることに気づいたのはたまたまの偶然。「たわみを計算して作ってます!」と言いたいところなんですが、よしとしましょう。ケンちゃんの反応を見て少し安心。
                            • 千切り時、どのように包丁と器具をつけた左手を動かしているのか寄りで撮影。もともと料理人であるケンちゃんは器具のない状態でも細かく・細く千切りすることはできる。でも、怖さがあると。器具のたわみと壁を利用し、包丁を動かせるようになったことで怖さをかなり軽減できている様子。上からぐっと押さえて、PPの弾性を使う。本体の程よい柔らかさが良いようだ。『断端周りが「グニャ」って見えるけど、その「遊び』が良かったかなぁ」とケンちゃん。
                            • キュウリのトゲと底面の突起が噛み合ってしまい上手くカットできないのではないかと考えていた自分。下ごしらえを始めたケンちゃん。苦味を取り除くため、器具の下でキュウリの転がしながらヘタ部分まわりをカットしている。想像していなかった使い方を目にし驚く自分。そのあとまた心地よい音と共にキュウリの輪切りができていく。
                              乱切りなども試してくれ、ごぼうなどキュウリ以外の円柱形状の野菜もできそうだ。包丁についたキュウリを器具を使ってはがしたりする動作もできる。当初のイメージしていなかった使い方を試し、可能性を示してくれた。底面の突起も問題がなさそうに感じる。安心感があるとケンちゃんのコメントがさらに嬉しい。

                            • ベルト2本は安心感があるけども、最終的にはシンプルなほうがいいかもと。長い時間使うときや、締付け感が苦手な場合もあるだろうから、現状のベルト穴はそのままで使用者の状態によってベルト位置、ベルト本数を選択してもらえるようにする。
                            • 調理時は作業の切り替えが頻繁にある。着脱のしやすさを考え、前回の結束ベルトを使ったものから、織ゴムに変更した。ゴム伸縮の力で大きく口を開くことができるようになり、ベルトパーツと本体との間に断端部分滑り込ませることができるようになった。前回のフィッテイング時にスムーズに行かなかった課題は改善できたようだ。

                            • 器具の仕上がり具合をケンちゃんに確認する。
                              『これまで』(器具使用以前)を評価してもらうと「3、4点」。 理由として包丁さばきで「厚さ、太さ、薄さ」のコントロールを物理的にできない。時間がかかる問題もあって、調理のリズムが崩れる。料理内容に適した形状にカットできないから、そもそも料理を変更せざるを得ない。イメージ通りにできないからとのこと。
                              器具を試してみて、『これから』を期待値も含めた評価は「7、8点」。 飛躍的にあがるとのコメント。フィッティング後にケンちゃんがグループチャットに感想メッセージを投稿してくれた。飛び上がるほど嬉しい!!!
                          • 最終形の自助具は4点の部品で構成。そのうち本体とベルトパーツの2点については、食品衛生法に対応しているPP(ポリプロピレン)フィラメントを使用して出力する。アジャスター、ベルトは手芸用品専門店で簡単にそろえられる。古くなってしまったり、破損した場合の取り替えが簡単。ベルトはカラーバリエーションがあり緑は野菜用など、ベルトの色で区別をつける。今後、肉、魚などカットするものごとに用意し目印とする。本体のベルト穴は側面にそれぞれ2つづつあり、使用者の状況によってベルトの取り付け位置や本数を選択する。必要であればアジャスターをどちらの側面にも用いても。ポテトチップス状の開放した形は洗いやすく清潔。
                            • ◯本体

                              ベルトパーツ
                              • 材質:本体と同じ
                              • サイズ:W90 D70 H2mm
                              • ベルト穴:W3 H26mm
                              • 加工:80℃の湯につけて曲げ加工

                              ベルト
                              • サイズ:W20 L330mm
                              • 材質:アクリル、ポリエステル、ポリウレタン / ユザワヤ
                              • 加工:面ファスナー縫付け予定

                              アジャスター
                              • サイズ:W20mm

                              最終データ

                              断端箇所サイズ
                              • 赤シール付近周囲:約200mm
                              • 緑シール付近周囲:約260mm
                              • 先端から緑シールまでの長さ:約150mm

                          • 僕はグラフィックデザイナー。僕が得意とするデザインスキルも使いたい。今回のコンテストだけでなく、ケンちゃんのように料理を楽しみたいが上肢の障害で困っていらっしゃる方々を応援しつづけたいと思い、プロジェクトロゴを発表する。自助具開発だけでなく、料理を軸としたコミュニケーションの場作りなどなど企画して、アイデアとユーモアで楽しく解決できたら! 仲間作りの旗印にも使いたい。

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                            食べることも作ることも、美味しいものが大好きなキャプテンクック。彼は世界イチのシェフを目指し、海賊の帽子をコック帽にかぶり直し新たな冒険に旅立ちましたとさ。
                              • 課題は沢山。やりたいことも沢山。PPフィラメントの知見を深め、自助具の品質を上げたい。野菜のカットだけでなく肉や魚も試したい。早くこの自助具を使ってケンちゃんのイベントができたら最高だ。もっと仲間と一緒にものづくりしたい。
                                最終フィッティング後、検証用に買ったキャベツが鎮座する冷蔵庫を開ける。家族からのお好み焼きリクエストに応える。ザルに大量にできた千切りキャベツを見つめ、ケンちゃんが「お好み焼きは得意」って言わないかな?と淡い期待を持つ。後ほど グループチャットに投稿してみよう。「えぇ〜」と言いつつも笑いながら話を聞いてくれそう。ケンちゃんいつもありがとう。来年の夏とかにできたら面白そうだな。
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                                    • No.001EijiItoPosted date: 2023-09-06
                                      対象のケンさんのことを細かく見ていて、モノづくりに対しても、繊細で、スゴイと思いました。技師装具士さんやリハビリ職のような視点を持っていて、勉強になります。
                                    • No.002kiyoshi-utsuPosted date: 2023-09-07
                                      普段はO型の大雑把なんですけどね。。。嬉しいです!